「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」のスナップ。

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■ 成功した大人のことば

福島県立原町高校1年生の朝倉悠太さんは、震災後に福島市で行われた音楽イベントで、坂本龍一に会った。

「そういうイベントがたくさんあるからかもしれないですけど、 震災以降、音楽関係の人に会うことが多くなりました。 坂本龍一さんとか福島市に来たときに写真一緒に撮ったりして。父がイラストレーターの奈良美智さんと知り合いみたいで、そのときに奈良さんと坂本龍一さんが知り合いだっていうことで、一緒にステージ裏へ行って写真撮ったり。少しだけ話しました。『頑張ってね』みたいな感じのことを言われて。これって、将来、もっとこのすごさがわかるのかな」

震災後「今まで会ったことのない大人」に会う機会を得た被災地の高校生は多い。観ただけ、話を聞いただけ、握手しただけというケースがほとんどだが、被災地にやって来たアーティストやアスリートとの遭遇は、高校生にはちょっとした事件だ。朝倉さん自身が言う「将来、もっとこのすごさがわかるのかな」は、そのまま答えになっているだろう。朝倉さん、この先、どんな大人に会いたいですか。

「若い医者探してます。話したい。(合州国の3週間でも)やっぱり医者の話はもっと聞きたかったですね」

朝倉さんは著名人の名を挙げなかった。「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」でも、たとえばシリコンバレーで働いている日本人など、今まで会ったことのない大人に朝倉さんは会っている。「TOMODACHI〜」参加者の前で流された孫正義のビデオメッセージも見た。そういう人たちの話を、朝倉さんはどう聞いていたか。

「成功してきた人の体験って、自分に照らし合わせてみて、『それ、自分でできるかな』って考えたら、『どうなのかな』って思う。事情はその人個人で変わってくるから。成功した人の話、勉強になる人は勉強になるんですけど、『これは難しいかな』って思う人は、たしかにいましたね」

そう聞かされるまで、こちらは「今まで会ったことのない大人」に会えることは、高校生にとって「良いこと」だと思い込んでいた。話はそれほど単純ではないのだ。高校生1人ひとりに現実感があり、距離感がある。成功者の話を聞いて鼓舞される者もいれば、反発を覚える者もいるだろう。そして「引く」者もいるかもしれない。実際、原町高校の生徒からは「孫さんとかになっちゃうとさ、届かないから」ということばも聞いた。高校生は1人ひとり違う。当たり前のことを、朝倉さんと同じクラスで、同じく医者を目指す高校生から話を聞き、こちらは再確認することになる。

■精神科医になりたい理由

益山公壽(ますやま・こうき)さんは、原町高校1年3組。同高のクラスは文系、理系、選抜の3種に分かれる。益山さんと朝倉さんのいる3組は、国公立をターゲットとする選抜クラスだ。益山さんのお父さんは団体職員、お母さんは会社員。自宅の震災被害は幸いなことに「全然やられてないです」。さて、益山さん自身は将来何屋さんになりたいですか。

「ぼくも朝倉君と一緒で医者です。精神科医になりたいです。落ち込んでる人とか、鬱になっちゃってる人たちを、前向きな考えにさせてあげたいと思って。心のサポートをしたいと思って」

「小学校6年生のときからお世話になってる勤務医の先生がいるんです。その人がぼくにはちょっと憧れになっていて。その先生みたいになっていきたいなと思いました。先生は小児科なんですけど、内科とか小児科にはなりたい人は結構いるかなと思って。それに精神科は、あまり原町では聞いたことがないので、自分も精神科医として地元で開業してみたいなと思いました」

精神科医になるためには、どんな学校に行けばいいのか。具体的に考えている学校名はありますか。

「福島県立医科大学です。福島市にあります。かなり難しいです。いまの自分だと全然ダメなんで、学力的に」

県立医科大は福島駅から車で30分ほど離れた場所にある。1947(昭和22)年創設。東北では他に青森と山形に県立の医療系大学があるが、いずれも医学部はない。同じ福島市にある国立の福島大学にも医学部はない。『2013年度用大学受験案内』(学研)内を見ると、福島県立医科大の2012年度入試ランク偏差値は65。ちなみに東北大学医学部は70だ。そういえば、さっき朝倉さんが、第一志望は東北大学、駄目だったら福島県立医科大って言ってたけど、隣で聞いていてムカつかなかった?

「しないです、全然してないです(笑)」

おっとりと話す益山さん。だが、インタビューを続けていくうちに、こちらは益山さんの短いひとことにたじろぐことになる。

(次回に続く)

(文=オンライン編集部・石井伸介 )