ライフネット生命副社長 
岩瀬大輔氏

準備の初期段階にやるべきことと直前でもできることは異なる。万全の体制で当日を迎えるためのコツを、厳しいスケジュールの中で成果を出してきた2達人が伝授する。

■岩瀬さんの場合

仮に100点のプレゼン資料をつくりあげたとしても、本番のプレゼンで準備した内容の半分しか相手に伝わらなかったらもったいない。

あるベンチャー企業のカンファレンスで、20社ほどが持ち時間6分ほどで次から次へ新商品を発表するという機会がありました。ところが、年に1、2回しかないチャンスなのに、時間オーバーでプレゼンがまとまらない会社がいくつもありました。プレゼンの時間は1社6分と事前にわかっているのだから、その時間内に終わらせるようにプレゼンを組み立て、前日まで練習を重ねてくるべきでしょう。

ただし、当日、本番ぎりぎりまで手をかけるのはあまり感心しません。テスト勉強なら徹夜してでも頑張りたいところですが、プレゼンの場合、徹夜して追加で詰め込める内容などたかが知れている。それなら、ゆっくり休んでコンディションを整えて本番を迎えたほうが力を発揮できます。

80%の完成度で十分なのに、それを90%、100%に高めようと無理して準備をし、コンディションを崩して30%しか発揮できないなら、80%のままで100%発揮できたほうがいいのです。

■安宅さんの場合

プレゼン本番の1時間前ともなれば、もはや何もすることはないのが望ましいのかもしれませんが、私の場合、頭の中でリハーサルを繰り返しているというか、正確にいえばシミュレーションをしています。

単にプレゼンの手順を確認するのではなく、対象企業がヤフーであれば井上(雅博)社長、ソフトバンクグループなら孫(正義)社長というようにキーマンの顔を思い浮かべて、「ここで間をおいて社長を見て、こう話を持っていく」という具合に場面ごとにシミュレートします。1つの型に閉じたイメージトレーニングではなく、さまざまなシナリオを想定してシミュレーションを行うのです。

前述したように、脳は自分で意味があると思うことしか認知できません。意味がある形を、シーンのイメージごとに頭に叩き込んでおくことで、バグ(欠陥)を事前に抽出することが可能になるばかりでなく、本番で状況に対する認知能力が上がります。ということは、本番での思いがけないできごとに対応する力が高まるのです。

ここで大事なことは、コンテキスト(文脈)から独立したプレゼンをしないということです。私の経験から言っても、コンテキストに沿った説明でなければこちらの意図は伝わりにくいし、相手の理解も深まりません。コンテキストを踏まえることで、たとえば「前回のミーティングで社長はこういうことを言っていたから、ここから切り込んでこっちに話をつなげよう」というように、相手への細かい配慮も可能になります。

もし本番直前に新しい情報が飛び込んできたらどうすればいいか。当然、それもプレゼンに入れ込んだほうがいいと思います。ストーリーラインをつくっている段階で大きなリスクさえ読み込んでいれば、どのような突発事項にも対応可能なはずです。

修正を加えても全体の構造自体が変わるわけではないので、「この情報が入る前までの前提ならこういう見立てでしたが、ここのストーリーが組み替わってこういう結論になりました」という説明はできる。慌てる必要はありません。前提が覆るほどの大きなことが起きれば、プロジェクトのデッドライン自体が延びるはずなのです。

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ライフネット生命副社長 岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
1976年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中に司法試験に合格。BCG、リップルウッドHDを経て、ハーバード経営大学院に留学。上位5%の優秀な成績を収める。卒業後、準備会社の設立に参画し、副社長に。近著は、『 132億円集めたビジネスプラン』。

ヤフー執行役員 事業戦略統括本部長 安宅和人(あたく・かずと) 
修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。4年半の勤務後、イェール大学脳神経科学プログラムに入学し、Ph.D取得。2008年ヤフーCOO室室長、12年3月より現職。経営課題・提案案件の推進に関わる。著書に『イシューからはじめよ』。

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(小川 剛=構成 飯田安国、市来朋久=撮影)