大槌町西端の小槌川沿いに建つ地元出資のセンター「シーサイドタウン マスト」付近に設けられた、がれきと植林を有効活用した防波堤。宮脇昭・横浜国立大学名誉教授(植物生態学)が提唱。内部には有害物質を除いた瓦礫(主に木材)が使用されている。今年4月30日に行われた植樹祭には東さんも参加した。「まだ防波堤の長さは短いので、また開催し、長くしていきたいです」(コメントと撮影=東 紗紀)

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■ 大槌—「初対面問題」の乗り越えかた

大槌高校1年生の古舘笑海さんが、酒蔵を再建したお父さんから言われたことば。

「震災後、仕事ができなくなる親が多くて、親には『資格が取れる仕事をしろ』と言われています」

保健師は立派に国家資格だ。その意味ではお父さんの意見と古舘さんの希望は合っているのだが、ひとつ気になった。お父さんは資格で飯を食っているのではなく、自力で赤武酒造を再興したわけですよね。なのに娘には「資格を取れ」と?

「父は今、とても忙しく辛い思いをしています。それで『笑海には、こんな思いはさせたくない』と言っています」

あらためて赤武酒造のウエブサイトを見ると、実に多くの人たちがこの蔵元を応援してきたのだとわかる。後日、古舘さんからもらったメールにも、そのことが書いてあった。

「父からは『友だちや知り合いがいると、助けてくれる。助けたりもできる。友だちはそういう存在なのだから、そういう人たちを大切にしなさい』と言われています」

古舘さんが「TOMODACHIサマー2012 ソフトバンク・リーダーシップ・プログラム」の3週間で学んできたことは、あたらしい友だちのつくりかたのようだ。

「初めて会った人たちと話したり、接するときに、どうすればいいかを学びました。どのプログラムでとか、誰かに教わったというよりも、3週間の日々の生活でそれを学んだんだと思います。初対面の人とどう話し始めればいいか? 一般的な答えになっちゃうかもしれないんですけど、『明るく元気に』だと思います」

初対面の人とどう話すかは、大槌の高校生には大事な問題なのだ。大槌に限らないだろう。小さな町で暮らしていると、初対面という体験自体が少ない。取材で出合った高校生たちの多くは、はにかみ、緊張し、ことば少なく話す。他の町では、ほぐれてくると「調子こいて」どんどん話す高校生もいないわけではなかったが、大槌の4人は最後まで照れっぱなしだった。

社会に出て行くとき、地方の高校生にとって「初対面問題」はちょっとしたハードルなのだ。古舘さんは合州国の3週間でその越え方を知ったというが、取材で訪れたこちらには、大槌の高校生には、ハードル越えの基本はすでにできているように思えた。取材は大槌高校校舎の一角を借りて行ったのだが、初めて訪れたこちらに対し、すれちがったすべての生徒が明るく大きな声で「こんにちは!」と挨拶してきた。これなら、じゅうぶん越えていけるのではないか。大槌高校が地元では「挨拶の大高」と呼ばれていることはあとで知った。

古舘さんの合州国での印象は「ホームステイした家が大きかったこと。お父さん専用のベッドルームがあった」。「TOMODACHI〜」は、合州国での3週間の中盤に、2泊3日のホームステイ・プログラムを組んでいる。合州国の一般家庭での生活体験は、UCバークレーでの高校生同士の合宿的興奮とはまた違う「ふつうの合州国」を知る機会になっている。そこで古舘さんの印象に残ったものが「お父さん専用のベッドルーム」と聞き、大槌で聞いた別の話を思い出した。

古舘さんたちが暮らす大槌には、震災後に誕生した「一頁堂書店」という本屋がある。震災前に地元の商店主が集まってつくったショッピングセンター「シーサイドタウンマスト」の中に店を構えている。マストも津波の被害を受けたが、昨年末に再開した。店頭で店主夫妻に「どんな本が売れていますか」と訪ねたときに「風水の本」と聞き、最初はスピリチュアルな何かを求めているのかと思ったのだが、まったく違った。

「大槌は今、ほとんどの人が仮設暮らしです。同じ間取りの、同じような部屋。みんなそれまで、それぞれの家、それぞれの部屋で暮らしていた。少しでも自分に合った、自分らしい部屋にしたいと思っているんじゃないのかなあ」。

■一頁堂書店
http://www.st-mast.co.jp/index.php?catid=3&itemid=21

■大槌—彼女たちの共通体験

ケアマネジャー(介護支援専門員)、看護師、保健師。大槌で会った高校生4人のうち具体的に挙げられた名称は、すべて医療・福祉関連だった。「地方にはそういう仕事しかない」としたり顔で言う者は、いずれも難関だということを忘れている。直接話を聞いたこちらは「それが彼女たちには身近な仕事だから志すのだ」という印象を持っている。

それは言い換えれば、「身近なところに見える仕事がある」ということだ。4人のうち、母2人、父1人、姉1人が介護関係の仕事をしている。そのうち1組は夫婦揃って近くの老人ホームで働いている。震災が起きる前から、大槌の高校生たちには「人の面倒を見る」という仕事は身近なものだった。ぜひ読者の皆さんに(特に高校生の息子さん、娘さんを持つ方には)この機会にちょっとだけ考えてみて戴きたい。お子さんたちの「身近なところにある、見える仕事は何か」を。

大槌で会った4人にはひとつの共通項があった。最後のほうで「大人たちに、仕事の話を聞きたいか。どんな話を聞きたいか」と問うたときの答えだ。

「ほんとうにやりたい仕事をしている人から話を聞きたい。直接会って」(東さん。ケアマネジャー志望)
「学校の先生や本じゃなくて、その仕事に就いている人に会いたい」(菊地さん。美容関係志望)
「『注射を打つ』だけでなく、具体的な仕事の内容を聞きたい」(柏崎さん。看護士志望)
「保健の先生のところにまた遊びに行って話を聞いてみたい」(古舘さん。保健師志望)

これはそのまま、「TOMODACHI〜」で学んだことなのではないか。連載の中で繰り返し触れていくが、この3週間の体験の中には、現地で働くさまざまな職業人たちに直接会い、仕事の話を聞くというプログラムがあった。その印象の強さを語る高校生たちは実に多かった。

この連載の最初の取材が、ここ大槌の町だった。ここで出合った高校生たちの話は、他の三陸沿岸の町でもどのくらい共通するものなのか。内陸部や、東北の都市部の高校生たちとは何が異なり、何が同じなのか。ひとつひとつ町を訪ねて確認していきたいと思う。次回は市の一部が「帰還困難区域」「居住制限区域」に指定されている福島県の町で、5人の高校生に会う。

(次回に続く)

(オンライン編集部・石井伸介=文)