トイゲーム 開発チーム 
大塚美奈子 
1980年生まれ。京都市立芸術大学(油画専攻)卒業。2003年、タカラ(現タカラトミー)入社。06年より現職。笑いの絶えない職場を心がける。

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とにかく小さいときから絵を描くのが大好きだった――。そんなタカラトミーの大塚美奈子さんの手帳は大判のダイアリー。手帳を開くと、右ページにカラフルなイラストがふんだんに盛り込まれている。

2003年、この手帳を仕事関係の施工業者から年賀品としてもらって以降、使い続けている。仕事中はいつでもどこでも常に持ち歩く。「これがないと仕事になりません。実際、仕事のときに忘れたことは一度もないですね」。

大塚さんは、「黒ひげ危機一発」と「人生ゲーム」などの家族向けホビーの企画開発を担当している。いつか企画にしたらおもしろいかな、と思ったことを、とにかくまず書いてみるというスタンスを取ってきた。過去には十分に練られていない企画をパソコンのフォルダに入れたこともあったが、結局、忘れてしまい、実現しないことも多かった。

「とりあえず手帳にすぐ書くことで、自分自身の頭にある事柄について整理できる。頭の中も空っぽになって、次の仕事に集中することができる」

左ページのスケジュール欄には、社内、社外、プライベートで色分けされたスケジュールが並ぶ。青色のタスクリストは終わったらどんどん消していく。

土日は基本的に空欄。自宅に仕事は持ち帰らず、手帳も触らない主義だ。「入社すぐの頃は家でも仕事をしていましたが、この手帳を使い始めてから、その日に考えたことや問題点を手帳にすべて書き出してから帰るので、区切りをつけられる。ONとOFFの区別がきっちりつけられるようになりました」。

ただ、自宅で風呂上がりや寝る前に思いつくことが多いので、携帯のメールにメモして未送信にしておき、会社で手帳に転記するスタイルをとっている。

ある日、裏と表があるリバーシ(オセロ)を見ていて「人生にも裏と表がある」というキーワードを思いつき、人生ゲームにも裏表をつくるアイデアを手帳に書きこんでみた。アイデアは苦難の末、実現し、発売1年で8万個の売り上げを確実にした。

大塚さんがいつも心がけているのは、仕事のメモでもスケジュールでもとにかく楽しく書くこと。「楽しくやらないと、おもちゃの企画は考えられない」と思うから、あまり細かいルールはもうけない。

コミュニケーションツールとして手帳を使うこともある。工場のある中国に出張した際は、色見本を手帳に貼り付けて、現地のスタッフと直接、交渉を行った。休憩時間にはイラストを描き合い、言語や文化の壁を越えて、良好な人間関係を築くことができたという。

むろん、ビジネスであるかぎり、開発スケジュールや予算はきちんと押さえなくてはいけない。納期や売り上げ目標などの数字がイラストの中にバランスよく埋め込まれていることもしばしばだ。

ビジネスとしての原則はきちんと踏まえたうえで、発想は自由に開放する。36色の色鉛筆と4色ボールペンで鮮やかに描かれた大きな手帳には、おもちゃという夢の種がぎっしり詰まっている。

注:オセロは登録商標です。

■習慣&活用法

[1]4色ボールペンでスケジュールをきっちり分類
スケジュール欄の予定は4色ボールペンで色分けする。赤は社内業務、黒は社外業務、青はその日のToDoリスト、緑はプライベートの予定。ToDoリストは終了したら消し、モレを防ぐ。1年で最低2回はペンを使い切るという。右の余白に書き込む際に、余った色を使うよう調整して、同じタイミングで使いきる。
[2]業務の達成度もイラスト付きで楽しく書く
複数の商品開発プロジェクトを同時に進行していくことが多いが、それぞれの達成度合いなどもあくまで楽しく、遊び心あるイラストを交えながら書き込む。「納期が迫っているなど、漠然としがちな不安要因もしっかり手帳に書き出すことで具体化できます」と大塚さん。「見える化」させることが対応策につながる。
[3]自宅でひらめいたら携帯に即メモ
ONとOFFのメリハリをつけるため、自宅では基本的に仕事をせず、手帳も一切触らない主義だが、風呂上がりや寝る前などに企画のアイデアなどをパッと思いつくことも多い。そんなときは携帯電話のメールにアイデアを打ちこんで未送信の状態にしておき、翌日会社に行ってから手帳に転記することにしている。
[4]写真もそのまま貼り付け、発想を具現化
イラストを描くだけでなく、気になった写真の切り抜きや、具体的な商品写真を貼り付けることも。写真は、2009年に発売された「黒ひげ危機100発」で、主に開発を担当しているロングセラー「黒ひげ危機一発」シリーズの1つ。自分がおもしろいと感じた要素をその場で手帳に取り込むことで、実用的で楽しめるおもちゃの企画につなげる。

[5]納期や色指定は正確かつ自由な形式で
営業・生産部門からの問い合わせにすぐ答えられるよう、各プロジェクトの期限と納期を一覧にする。最初はエクセルを用いていたがなじまず、手書きで書くようになった。おもちゃの色見本も具体的なイメージを把握する意味もあり、切り抜いてそのまま貼り付ける。売り上げ数字や納期は厳しく管理しながらも、自由な発想を残す工夫をする。
[6]「とりあえず描く」アイデアがヒット商品を生む
リバーシ(オセロ)に着想を得た「人生ゲームに裏表をつくる」というアイデアも、その場で具体的なイメージをイラストし、構想を膨らませた。この自由で開放的な発想の手帳術によって人生ゲーム「ドリームチェンジ」は生まれた。日ごろから流行に敏感であろうと努め、「あの有名人が人生ゲームをつくったら?」などと、とりとめのない企画を手帳に描いては、試行錯誤を繰り返す。

(木下明子=文 澁谷高晴=撮影)