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「口上」とよばれる呼び込みで、見世物小屋の入口前を歩く人の足をとめる。

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見世物小屋をみたことのある人はどのくらいいるだろうか。昔は神社のお祭りなどでよくみたという話を年上の人たちから聞いたことがあるが、私は一度もその経験がなく、お祭りや縁日でみかけた出店の記憶といえば、食べ物や射的などの屋台くらいのものだった。そんな私が、見世物小屋に興味をもったきっかけになったのが、『ニッポンの、みせものやさん』というドキュメンタリー映画だ。

この映画では日本で最後の見世物小屋と言われる大寅興行社一座がカメラに収めてられている。監督は奥谷洋一郎さん。一座と出会ったのは、彼らが見世物小屋の他にやっていたお化け屋敷を手伝ったことがきっかけだったらしい。この作品は、それから10年にもわたる一座と監督との交流の記憶でもあり、最後の一軒となった見世物小屋の記録にもなっている。

■ 見世物小屋とは
見世物小屋は、神社のお祭りなどで屋台などと一緒に軒を連ね、日常生活ではみることができない好奇心を刺激するものをみせてくれる場所とでも言えるのだろうか。へび女、人間ポンプ、タコ娘、ロクロ首、犬や猿の芸など、小屋によってその見世物は様々だったようだ。室町時代に端を発し、明治時代以降に現代の見世物小屋のような様式となったらしい。

「僕がみたのは、大寅興行社の見世物小屋であって、こういうものが見世物小屋だという型のようなものはありません」と奥谷監督は語る。映画の中で目にすることのできる大寅興行社の見世物小屋は、お祭りで見るような屋台を縦横に何倍にもしたような大きな小屋で、入口の装飾には赤い色が多く使われ怪しい雰囲気が漂い、そこに立ち呼び込みをする一座の一人が巧みな語り口で歩く人の足を止める(写真1参照)。上をみれば、みせものを紹介する手書きの看板がずらりと並んでいて中で何が起こっているのか興味をそそり(写真2参照)、期待を膨らませ入口を入ってみれば、観客でいっぱいの熱気の中で、生きた蛇をそのまま食べるへび女や、火を吹く女などを間近で目の当たりにできる非日常の空間が広がる(写真3参照)。普段は撮影が禁止されている見世物小屋の内側を特別に許可をもらって撮った貴重な映像だ。

大寅興行社の魅力は、見世物だけではないと奥谷監督は言う。
「僕が何よりすごいと思うのは、どんな場所でも誰がきても対応できるというところです。日本の各地に一座は興行に行きますが、反応はそれぞれ違います。その微妙な違いをみてとって観客を楽しませる雰囲気を作り出す。それに、ああいう場所は観客が静かにみているようなところではないんです。酔っ払いがきたり、子どもが泣きはじめたり、いちゃもんをつけられたり、様々な事が起こります。そういうときでも大寅さんたちは的確に対応できるんです」

■ 見世物小屋の今
見世物小屋は全盛期には数百を数えたが、映画やテレビなど娯楽の多様化、ライフスタイルの変化など時代の流れの中で数を減らし、現在単独で興行できるのは、大寅興行社の一軒だけになっている。奥谷監督の取材のあとに、東京で興行があるというのを聞いて行ってきたが、今こういう場が残っていることが奇跡のように思えたし、みた後はなぜか幸せな気分になった。また映画の中では出演していなかった若い人が興行に加わり観客でいっぱいの小屋の中でも注目を集めていたのには驚きだった。

「実際にみていただくのが一番よくわかると思います」奥谷監督がそう話しているように、見世物小屋は実際に体験して自分自身でどういうものなのかを感じるところだ。まだ最後の一軒が残っている。みたい人はどこかで実際に目にするチャンスがあるはずだ。

奥谷監督の映画『ニッポンの、みせものやさん』も全国で順次公開される。普段はみることが難しい見世物小屋の設営からたたむところ、またその歴史も交えた話も映画の中にでてくるので、見世物小屋を目にしたことのない人はもちろん、すでにみたことのある人も楽しむことができるに違いない。(エキサイトニュース編集部 萩原)

※『ニッポンの、みせものやさん』の公開情報はこちら。

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