ローランド・ベルガー パートナー 
平井孝志氏

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会社の評価の基準が変化するなか、どんな働き方が求められているのか、社員の悩みは尽きない。年代別「手放せない社員」の条件を明らかにする。

■平井孝志さんのアドバイス

40代になると世の中の仕組みはどうなっているかが身をもってわかり、現実に目が向くはずです。自分は今後、どんな価値を発揮できるのかを考え直すよいタイミングです。

自分は何をやりたいか、何をしていたらハッピーなのかをとことん考えてみてはいかがでしょうか。いままで培ってきた能力、経験、ネットワークを振り返り、残りの人生で何を成し遂げたいかを真剣に考えるのです。

私は新卒で戦略系のコンサルティング会社に入った後、30代になってパソコンメーカーのデルやスターバックスに移りました。事業会社を経験して自分の幅を広げたいと思っての転職でしたが、40歳を前に、自分の強みが活かせるのはどこかと考え、コンサルティング会社に戻りました。30代にほかの世界を見たことで、自分が何に価値を置いているかをあらためて理解できたと思っています。

デルやスターバックスでは、ルーティンの仕事も多かったのですが、学ぶこともたくさんありました。組織の中で物事がどのように進んでいくのか、これは企業の中に身を置いて初めてわかりました。経営に実際にかかわったことは、いまの仕事や、大学の講師といった活動にも活きていると思います。

自分の経験を振り返っても、30代は無限の可能性に向かって能力やスキルを思う存分伸ばしていける年代だったのではないかと思います。見るもの、聞くもの、読むものすべてが自分の肥やしになるインプットの年代ともいえますが、40代になったら、アウトプットを意識すべきです。

勉強をするなということではありません。英語を学ぶなら、何のために必要なのか、習得して何に活かすのかというアウトプットをまず明確にして取りかかるべきです。場合によっては、英語より会計の勉強を優先したほうがいいということになるかもしれません。

40代に入って、私は本を書いたり大学で教えたり講演をしたりと、さまざまな手段でのアウトプットを心がけてきました。もちろん、出版や講演以外にも方法はあります。仕事の成果をレポートにまとめてもいい。読書会を始める、社内で勉強会を立ち上げる、部署横断の社内活性化チームを組織する……。何でもいいので、自分自身を試す機会と考えて取り組んでみてください。

■相手を理解するには自分を理解すること

日本企業でも人材のグローバル化が進み、40代の管理職の場合、ある日突然、外国人の部下ができるケースもあるでしょう。そんなとき、相手がアメリカ人ならアメリカの歴史、中国人なら中国のお国事情を勉強したほうがよいのでしょうか。答えは然りかつ否です。もちろん、そうした話題を出せば外国人の部下は親近感をもってくれるでしょう。でもそれだけでは足りないのです。

現在勤務している会社は外資系なので、全世界のパートナーが集まる会議が年に数回あります。懇親会の席上、フランス人が私に武士道に関する質問をぶつけてきました。すると同席していたロシア人が「それは『ラストサムライ』の世界だね」と言うのです。国籍が違う2人が「ラストサムライ」を観て武士道、そして日本への憧れを抱いていた。そう、国際社会では誰もが「自分のルーツ=拠って立つ軸」を意識せざるをえません。

相手を理解するうえでは、自分が何者かということを理解していることが大前提です。逆にいえば、大事にしたいものをもっている上司に、日本人、外国人を問わず部下は自然についてくるものです。

■橘・フクシマ・咲江さんのアドバイス

今の40代は1961年から71年生まれの人たちで(※雑誌掲載当時)、「新人類」と騒がれたものでした。その少し上が団塊の世代で、夜を徹して働く「企業戦士」でした。一方、すぐ下には、バブルの恩恵を受けておらず「大学は出たけれど」の「貧乏クジ」世代がいます。40代は対極の価値観を持つ世代に挟まれ、人生で最も多忙といわれる年代を生き抜いている人たちなのです。

この10年を振り返ると、グローバルの人材市場には2つの大きな波がありました。1つは2000年のITバブル、もう1つは04年からリーマン・ショックが起きた08年夏までの時期です。前者の景気を牽引したのは欧米諸国でしたが、後者は新興国、特に中国とインドの成長が背景にありました。最近は世界的に景気がようやく回復基調となり、あらためてグローバル人財(資産価値のある人材)へのニーズが高まりつつあります。

どんな企業がいつ潰れてもおかしくないこの時代、汎用性のあるスキルを磨いておく必要があります。50代になると、それまでの経験が邪魔をして難しいかもしれませんが、40代前半ならまだ大丈夫です。

たとえば語学です。まず、世界共通言語の英語がいいでしょう。ネイティブ並みに流暢になる必要はありません。なまりのある英語でも、自分の意思を伝えられるレベルを目指しましょう。加えて、中国語などアジアの言語を1つ、聞いてわかるレベルにしておくといいでしょう。語学は、毎日コツコツやると3カ月でも驚くほど上達します。

とはいえ、外国語ができるからグローバル人財になれるわけではありません。大切なのは「心の国境」を取り払うことです。

たとえば、「Aさんはアメリカ人だからこうだよね」という色眼鏡で人を見ない。個人のAさんという目で見てつき合うこと。「アメリカ人であること」はAさんの数ある個性の1つとして捉え、違いは尊重しますが、決めつけないことです。

以前、外資系企業で取締役をしていたのですが、そのときは唯一の社内取締役として、社外取締役の方々に、自社や業界の事情を縷々説明する役割を担っていました。彼らは経歴も国籍もばらばらだったので、理解いただくのに苦労しました。

最初のうちは「Bさんはドイツ人だから、ドイツ人にわかってもらうにはどう説明したらよいか」という考えが頭を離れなかったのですが、しばらくすると「BさんはBさん。たまたまドイツ人で、50代で、男性で、こういう職業経験がある人だ」と考えられるようになって、それから楽になりました。不思議なもので、そうやって接していると、日本が話題になる特別な場合を除き、先方も橘・フクシマ・咲江という個人と話をしてくださるようになったのです。

人を見るとき、国籍等からくる違いは尊重しますが、価値判断を挟まない。これがグローバルで活躍するための重要なポイントだと思います。

■「中国人はおせちを売れない」の嘘

40代前半で初めて管理職になり、部下を持つ人もいるでしょう。「ただでさえ忙しいのに、部下の育成にもコミットしなければならないのか」という嘆き節が聞こえてきそうですが、悲観的に考えず「今まではすべて独力でやらなければならなかったが、それをやってくれる部下を会社が与えてくれたのだ」と発想を転換してはどうでしょう。

どうすれば部下をうまく働かせられるか。極端な言い方をすれば、一種のゲームだと思って取り組んではどうでしょうか。この人は褒めて育つタイプだと思えば、多少大げさに褒めればよいし、この人は仕事の途中で口を挟むとやる気をなくすタイプだと判断したら、「あとは任せた」と成果報告を楽しみに待てばいい。それぞれの部下の特性をよく考え、本人が一番やる気を出してくれる方法で仕事を任せるのです。

ローソンの新浪剛史社長に伺った話ですが、2009年の暮れ、ローソン全店の中でおせち料理を最も多く販売したのが、大阪市内の店舗に勤務していた中国人の女性社員だったそうです。同社は最近、日本の大学に留学してきた外国人学生を積極的に採用していますが、彼女もその中の1人でした。

売れた理由は、とにかく「売ろう」という一生懸命な姿勢が外に表れていたからだそうで、その健気さに打たれたお年寄りのお客様がたくさん購入してくれたとのこと。「中国人でもこれだけ売れるなら、私たち日本人も頑張らないと」と、相乗効果も生まれたそうです。「中国人がおせちを売れるはずない」という「心の国境」、つまり固定観念を捨ててみれば、あなたの部下にも思ってもみなかった力が隠れているかもしれません。

※すべて雑誌掲載当時

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ローランド・ベルガー パートナー 平井孝志(ひらい・たかし)
東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。MITスローンスクールにてMBA取得。ベイン・アンド・カンパニー、デル、スターバックス等を経て現職。近著は『売れる
「じぶん」を作る』。

G&S グローバルアドバイザーズ社長 橘・フクシマ・咲江(たちばな・ふくしま・さきえ)
清泉女子大学卒業後、国際基督教大学大学院修了。ハーバード大学大学院教育学修士。スタンフォード大学大学院経営学修士。ベイン・アンド・カンパニー等を経て、日本コーン・フェリー・インターナショナルに入社。2010年8月より現職。

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(荻野進介=構成 向井 渉=撮影)