会社力研究所代表 長谷川和廣氏

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手本のない時代になった――。あなたの仕事人生は今後上昇するか、それとも停滞するか? 2000社の赤字会社を黒字にしたトップが直接アドバイスする!

■上昇:行動する人
停滞:横着な人

これからの世の中で、絶対に伸びない人間は次の4つのタイプです。

(1)怠惰・ルーズな人
(2)信用がない人
(3)弱い者に高圧的に接する人
(4)チャンスを目の前にして何も行動を起こさない人

私は、これらすべての人を“横着者”と呼んでいます。高度成長期では、このような人たちでも無難に定年を迎えられました。なぜなら世の中がどんどん成長する“上りのエスカレーター”のような時代だったから。立っていれば世の中が勝手に上のほうまで運んでくれたのです。

しかし今は下りのエスカレーターの時代。必死で足を動かしても、なかなか上りきることはできません。そんな時代に“横着して停滞している人”は、その場に留まるどころか、どん底に近づいている。

――つまりそのような人は生き残れない……。

特に会社側は、そんなタイプの人を嫌がる。部下の手本にならないどころか、部署全体のモチベーションも下げてしまう危険性があるからです。対外的にも評判が悪いし、利益を会社にもたらすようなチャレンジをしないわけですから。

――そういう人が何かのきっかけで変わるということはあるのか?

あります。実は横着者というのは仕事の面白さをわかっていないだけなのです。面白いと思っていないから、仕事を自分から遠ざけようとしているわけです。ただ、こういう人たちに仕事の楽しさを教えることは本当に難しい……。

――それはなぜなのか?

一度、体力と知力の限界まで仕事をしてみる決心が必要だからです。横着者は今まで真剣に仕事をした経験がないので“仕事の勘所”というものを掴んでいません。だからよけいに仕事がつまらなくなる。そんな負のスパイラルを断ち切るには、ハードワークをしてみるのが一番です。このハードワークにはもうひとつの効果があります。上司や部署内の人間たちに『お、彼はこの頃、変わったな』と思わせることです。すると不思議なもので、周りの評価が上がれば、本人も仕事が楽しくなってくるのです。

■上昇:ツキを呼び込む人
停滞:スランプを招く人

スランプは、誰でも経験すること。普通なら、スランプ続きだからといって、即リストラ候補、ということにはなりません。

ただ、問題はなかなかスランプから抜け出せないタイプです。例えばこのタイプの営業マンが一度売れない波に呑まれると、一様に動かなくなります。机の上であれこれ販売戦略を考え、コンピュータの前で得意先や市場の動向を調べる時間が長くなる。この手のタイプは危険かもしれません。

――つまり、現実逃避してしまう?

その通り。相撲の世界に『土俵のケガは稽古で治せ』という言葉があります。一見乱暴な言い方ですが、そのウラには、『ケガを怖がるな』というメッセージが隠されている。仕事のスランプも同じで、営業回りのスランプのときは、こまめに外に出て、小さな契約でも取ってくる。そうやって自信をつけることで抜け出すのが一番の近道!

――ほかにスランプの脱出法は?

ミスやエラーを反省しすぎないことです。認知心理学によると、ミスを反省するとかえって行動が萎縮して、また新たなミスを引き起こしやすくなるそうです。私は現役時代、そんな泥沼状態の部下を目にしたら、必ずイエスと言ってくれる顧客のところに連れていって商談させたものです。もちろん私はついているだけ。クロージングまでやらせて『成功と手柄』を与えました。

いくら負けパターンを分析しても、勝ちパターンというものは学ぶことはできません。しかし、小さな成功体験をきっかけにすれば、早めにスランプから抜け出せます。そして、それをアシストするのは上司の務めだと考えています。

――スランプに陥らないようにするための、予防策のようなものはあるのか?

これは部下への手紙にもよく書いたことですが、マイナス言葉を口にしないこと。『不景気だから売れるわけがない』とか『資金不足だから大手に勝てない』などといった言葉は禁物。

ついそんな言葉が出そうになったら、『不景気だからこそ、売れる商品がきっとある』とか『資金不足でも大手に勝てる抜け道はなんだろう』という言葉に言い換えて、声に出してみる。すると自分自身もそれを聞いた周りの人間も、前向きな気持ちになって活気づくのですね。

ツキを逃さない人たちは、どんなときでも『どうすべきか』を冷静に考えられる人です。手本なきこの時代だからこそ、これからは自ら新しいビジネスの手本を考えようとする人が重用されると思います。

■上昇:味方をつくれる人
停滞:敵ばかりが多い人

ビジネスは戦争だ。よく部下に対して言ってきた言葉で、手紙に何度も書いたフレーズです。だから、味方は多いほうがいい。

しかしそんな簡単なことにも気づかず、淡々と上司に命じられた仕事をこなしている人があまりにも多い。

しかし、現代の日本ではほとんどの企業の経営者はダウンサイジングする機会をうかがっています。

そして、味方がいない人、敵が多い人がまず先に、会社から弾き出される危険があります。

――やはり上司に可愛がられるような人にならないといけない?

いいえ。上司に可愛がられ、部下たちからいい人と言われるような、社内調整役として力を発揮する人材の重要性は、完全に薄れています。厳しいこの時代では自分自身で儲けの糸口を探し出し、プロジェクトを立ち上げ、そして成功を勝ち取るような推進力を持った人が評価されます。

厳しい戦いのなかでは、敵をどんどん倒してくれる人のそばにいたいのが人情というものです。

人を判断する基準は好き嫌いではなく、戦闘能力の有無で決まる時代なのです。

――つまり、そんな戦闘能力を身につけないと、誰からも味方と認められないということか?

少なくとも自分の強みは持ってほしいですね。

私の場合は20代のときに身につけた英語力と当時はアメリカにしかなかったマーケティングの手法でした。

それらをいつもひけらかしているのは嫌みですが、ギャングが背広の内ポケットに潜ませた拳銃のように、たまにチラリと見せる(笑)。

そういうアピールも味方を増やすためには必要でしょう。

――ビジネスパーソンが人脈をつくるためには、たまにはそういうパワープレーも必要なのか。

特に社内では力を見せることは重要でしょう。

しかし、人脈づくりの基本はマジメとケジメだと思っています。なぜなら私自身が“あの人だけは助けてあげたい”と感じた人はみな、マジメな人たちばかりでしたから。

また、上下左右のケジメも重要な要素。上司と部下、取引先といった枠を尊重する誠実な人は誰からも信頼されるのではないでしょうか。

そんなケジメの垣根を越えて誰とでも友人になろうとする人とも多く出会いましたが、私の経験上、彼らが本当の味方になったことはありません。

やはりきちんと段階を踏んで徐々に親しくなっていくような関係の結び方が、ビジネスにおける信頼に直結するのではないでしょうか。

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会社力研究所代表 長谷川和廣(はせがわ・かずひろ)
1939年、千葉県生まれ。中央大学卒。十條キンバリー、ゼネラルフーズ、ジョンソン等でマーケティングを担当。その後、ケロッグジャパン、バイエルジャパン、バリラックスジャパンなどで社長を歴任。2000年ニコン・エシロールの代表取締役就任。50億円の赤字を抱えていた同社を1年目で営業利益黒字。2年目で無借金経営に変貌させた経営手腕が高く評価される。

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(会社力研究所代表 長谷川和廣 取材・構成=宇野 晃 撮影=鷹尾 茂)