ライフネット生命副社長 
岩瀬大輔氏

準備の初期段階にやるべきことと直前でもできることは異なる。万全の体制で当日を迎えるためのコツを、厳しいスケジュールの中で成果を出してきた2達人が伝授する。

■岩瀬さんの場合

本番の3日前、少なくとも1日前の段階では、プレゼンやプロジェクトの大体の骨格はできあがっていて、残るは細かい詰めの作業という状態になっているのが理想的でしょう。また、この段階では100%に仕上げようとするより、80%ほどの状態で切り上げて練習に時間を割いたほうがいいと思います。

大学時代、私は司法試験の予備校で講師のアルバイトをしていました。一度、400人くらいの生徒を対象にした講義を行ったことがあるのですが、そのときは友人10人くらいに集まってもらって事前に模擬授業をやりました。リハーサルをしてみると、時間の使い方や自分がつっかえやすい個所がよくわかる。相手の反応するポイントも事前にチェックできて、不必要な緊張はしなくなります。

重要なプレゼンに臨むときも、事前に社内でリハーサルする。私自身、社外の人に向けて話をする前には、社長の出口(治明)やほかの役員に聞いてもらうことがよくあります。それだけでなく、社内でそれぞれ専門性を持った人、たとえば医療関係の話なら看護師資格を持っている社員、保険の数学的問題なら保険数理の専門家に相談をするようにしています。どこかに抜けている視点がないかをチェックしてもらうためです。

本番の1日前なら、新しい視点を盛り込むより、表現や言い回しを一工夫するほうが効果的かもしれません。前述のテレビ出演の際には、出演前夜に厚生労働省の友人とメールでやり取りをすることで「世代間の対立を煽るような言い方は避ける」「60歳以上を“高齢者”と一括りにせず、シニア世代、つまり自分の母親の世代。シルバー世代、こちらは祖母の世代、と実例を出しながら、丁寧に論じる」といったアドバイスをもらうことができ、ずいぶん助かりました。

■安宅さんの場合

1カ月程度のプロジェクトの場合、本番の2、3日前にはアウトプットができているほうがいいと思います。私なら、アウトプットの見立てがほぼ完成した時点で、副社長や常務などのキーパーソンに説明に行きます。

「こういう検討をして、肝になる論点はこれとこれで、このあたりが落としどころ」と、カギになる個所を説明する。資料を全部見せてもいいのですが、そこまでする必要はないでしょう。

キーパーソンに事前に話を通しておくことで、「じつは社長肝入りのこんな話があって、わが社の悲願なんだけど、なかなかうまくやれなくてね。そのあたりを汲んで話したほうがいいのでは」などと、思いもよらない情報がもたらされることがある。必ずしも論理的とは限らないのですが、その企業特有の思いがあって、それを乗り越えなければ決断に至らないポイントもあるもの。そういった情報や視点は、内部の人からしか出てきません。

2、3日前からはリハーサルを始めたほうがいいでしょう。できれば、頭が切れて当該プロジェクトのことを知らない人に聞いてもらい、厳しい質問をしてもらうのがお勧めです。私も重要なプレゼンの場合には、CEO役やCFO役を割り振って、ロールプレーイング形式でリハーサルをやることもあります。

リハーサルの結果次第で、プレゼンの流れを軌道修正する必要も出てきます。ただし、ここでやっていいのは、論理の組み替えではなく、ストーリーの最適化です。リハーサルを経て足りない点が出てきたとしても、半日や1日あれば、まだできることは十分あります。

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ライフネット生命副社長 岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
1976年生まれ。東京大学法学部卒。大学在学中に司法試験に合格。BCG、リップルウッドHDを経て、ハーバード経営大学院に留学。上位5%の優秀な成績を収める。卒業後、準備会社の設立に参画し、副社長に。近著は、『 132億円集めたビジネスプラン』。

ヤフー執行役員 事業戦略統括本部長 安宅和人(あたく・かずと) 
修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。4年半の勤務後、イェール大学脳神経科学プログラムに入学し、Ph.D取得。2008年ヤフーCOO室室長、12年3月より現職。経営課題・提案案件の推進に関わる。著書に『イシューからはじめよ』。

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(小川 剛=構成 飯田安国、市来朋久=撮影)