会社力研究所代表 長谷川和廣氏

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手本のない時代になった――。あなたの仕事人生は今後上昇するか、それとも停滞するか? 2000社の赤字会社を黒字にしたトップが直接アドバイスする!

2000社の赤字会社を黒字化して再建した、会社再生のプロ・長谷川和廣氏が40年のビジネス人生から導き出した“生き延びる人の条件”を記した『社長のノート』(かんき出版刊)は、シリーズ累計20万部に迫る大ヒットとなった。そんな長谷川氏が今回、部下を勇気づけるために贈り続けてきた手紙やメッセージの中から、仕事の心構えとして役に立つノウハウを公開してくれた。

「1人ひとりが石にかじりついてでも生き延びたいという意識を持たない限り、日本経済の復活は不可能だと思います。そんな気持ちから、私が若い部下に贈り続けてきたメッセージを『社長の手紙』と題した書籍にまとめました。僭越ながら読者の方々に、仕事の心構えが少しでもお伝えできたら幸いです」

長谷川氏自身が、40年間、一度も収入ダウンやリストラの経験を持たずに数々の外資系企業のなかで生き延び、さらに社長にまで上りつめた“サバイバルのプロ”である。

昭和40年代、当時は日本に存在しなかったマーケティングやプロダクトマネジメントのノウハウをグローバル企業で徹底的に学び、そこで得た知恵を生かして、会社再生のプロとして頭角を現した人物なのである。

特に50億円もの巨大赤字を抱えていた眼鏡レンズメーカーのニコン・エシロール代表取締役に就任するやいなや、1年目で黒字に、2年目に無借金経営に変えてしまった手腕はあまりにも有名だ。

「企業も個人も問題点を明確にすれば、再生は論理的かつ簡単なのです。しかし、劣勢に立つと現実から目をそむけてしまう。これが再生のチャンスを奪うのです。この縮小する市場をどう生きるかには、手本などありません。戦後、日本経済が経験したことがない状況ですから。そんなときこそ重要なのが、数々の生き延びてきた経験則。そして辛い現実から目をそむけないハートの強さが大切です」

そう語る長谷川氏の目から見た“成長する人、停滞する人”の分岐点とはどんなところにあるのだろうか?

『社長の手紙』(プレジデント社刊)を紐解きながら探っていこう。

■上昇:プロの仕事ができる人 
停滞:最後までアマの人

レバレッジ(テコの原理)を利かせる、という言葉を、若手社員からよく聞きます。最小の努力で最大の結果を得るというのはビジネスの世界では当たり前の話なのですが、その言葉が若い人から発せられると、正直、『ちょっとこの人は信用できないな』と思ってしまう。

現実のビジネスの中で、この“テコの原理”を考えてみると、本人の努力が力点、結果が作用点。そしてその人が持つスキルや人間力こそが支点です。テコは強固な支点があってはじめて効果を発揮しますが、若いうちからレバレッジという言葉を使っている人は、どうもこの支点の部分で信用がおけない(笑)。本当の仕事のプロになれる人は仕事で楽をせずに限界まで挑戦する人、そして揺るぎない仕事のスキルを持った人です。

――ではどんな人が、仕事のプロになれずに、アマチュアのままで終わるのか?

言い訳が多い人です。私は営業成績が悪い営業マンにその理由など聞きません。それは返ってくる答えが次の2つのどちらかだからです。自社製品の弱みか、不景気のせい。しかし、売れない理由をそういうところに求めているうちはプロではない。プロはどんな場合でも『どうしたら売れるか』を考え抜く人です。

――しかし、この大不況時代、業績が上がらないのも無理はないのでは?

確かに企業の商品開発能力や販売企画力の問題もあるでしょう。ただし、こと営業においては、倍の成績を挙げようと思ったとき、一番簡単なのは訪問先を倍にすること。分母を多くすればいい。実はできない営業マンに1日のスケジュールを聞くと、かなり余裕を持たせている人が多い。こういうタイプは空間管理を考えていないケースが多い。訪問先を近場に集中させたり、効率的な移動ルートを考えさせれば、倍は無理でも1.5倍くらいには増やすことができるものなのです。本当はこういう細かい工夫を日常において常に心がけることこそレバレッジだと思います。しかし、本人も上司も場当たり的に営業活動をしている。そんな企業ほど業績悪化が目立ちますね。

――長谷川さんが考える、真のプロ社員像とは、どういう人材ですか?

それは“ミニ社長”型の人材です。会社全体の仕事を俯瞰して、自分の行動を考えることができる人。常に『こんな場面では、社長ならどう判断するか』という思考をする人。逆に上司に命じられた仕事をただこなしている人は、いつまでたってもプロにはなれません。

■上昇:仕事がうまい人 
停滞:数字を残せない人

なぜか数字を残せない人や結果を出せない人の最大の原因は、その人が能力や天分、スキルに欠けているからではありません。たったひとつ、執着心が弱いのが原因です。

学校の成績と、仕事での数字の最大の違い――それは、学校では70点を取れば落第しませんが、仕事では常に100点を目指さなければならない。1点足りない99点では、失敗というケースが往々にしてある。

それは、ほんの1カ所のチェック漏れが大事故やリコールにまで発展する危険性があるからです。

ですから100%を目指し、ギリギリまで粘る心の強さは、仕事のプロとしての第1条件。

そしてそのための努力を惜しまない人には、それなりの結果や上司や取引先からの信用がついてきます。反対に数字を残せない人というのは、『70点でOKだろう』という学生気分が抜けない人なのです。

――そういう人が部下の場合、どういう指導をすればいいのか?

例えば1000本のニンジンを切ってくれと頼まれたとしましょう。それだけではウサギにあげるのか、何かほかの料理の材料になるのかがわかりません。すると、『ま、叱られない程度にやっておくか』と考えるのが人間です。

しかし作業前に、このニンジンは幼稚園児の給食になるのだ、と知ったらどうでしょうか。『細かく切ったほうが園児は食べやすいだろう』とか『傷んでいる部分があったら除いておかなきゃ』と心配りをするはずです。

つまり、自分の仕事の意味を知れば知るほど、仕事に対する執着心は生まれてくるということ。

私が現役時代、部下たちに『ミニ社長になれ』と言ったのも、自分の仕事がどう利益に結びつき、どう会社に貢献できるかを常に考え、仕事をやることの意味を深く知ることにつながると思ったからです。

――では、具体的に“仕事の意味がわかっていないな”と感じるケースには、どんなものがあるのか?

給料が天から降ってきていると思っている人があまりにも多い。会社に行けば給料が出る、と思っているような人にいい仕事などできません。特に営業マンの場合、売りっぱなしの人はダメです。顧客から入金があってはじめて営業の仕事は終わります。

しかし、契約書を交わしてそれで仕事が完了と思っている人が少なくありません。しかし、キチンと結果を出す人というのは相手の支払い能力も勘案して契約を取ってくる。そんな些細な気遣いの差が結果的に大きな成果となって表れるのです。

■あなたは成長できるか?
10のチェックリスト

長谷川社長が自分の手帳から書き写して、自宅の机の上に貼ってある自分チェックリスト。あなたはどれぐらいできているか?

1.単純なことだが、すべては「やるか、やらないか」できまる

2.働く男が最後に生き残る

3.不器用な戦いでいいから、つねにまじめに誠実に

4.気づいたら、すぐにやりなさい

5.気持ちも行動も、デッカク生きよう

6.無力だからこそ、最後まで諦めてはいけない

7.解決策はどこにあるか、夢中で探せ

8.何かワザを持て! 一芸に秀でる人は泳ぎきる

9.いつの時代も、問題解決力の高い人が頭1つ出る

10.「勝ちたい」という執念の差が人生を分ける

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会社力研究所代表 長谷川和廣(はせがわ・かずひろ) 
1939年、千葉県生まれ。中央大学卒。十條キンバリー、ゼネラルフーズ、ジョンソン等でマーケティングを担当。その後、ケロッグジャパン、バイエルジャパン、バリラックスジャパンなどで社長を歴任。2000年ニコン・エシロールの代表取締役就任。50億円の赤字を抱えていた同社を1年目で営業利益黒字。2年目で無借金経営に変貌させた経営手腕が高く評価される。

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(会社力研究所代表 長谷川和廣 取材・構成=宇野 晃 撮影=鷹尾 茂)