「小規模宅地の特例」の改正で相続税はすでに課税強化された
「増税を考える」スペシャルインタビュー?

富裕層以外は無縁だった相続税も課税対象が拡大中だ。基礎控除枠の引き下げは先送りされたが、特例の適用厳格化で、従来なら無税だった人たちの間でも相続税が発生。ベストセラー『磯野家の相続』で話題の長谷川弁護士が事前の節税対策を伝授!


世界的に見れば、相続税は廃止される方向にある。たとえば、シンガポールや香港にはすでに相続税がなく、世界中の富裕層が移住する動きも見られる。所得税を差し引かれたうえで蓄財したにもかかわらず、さらに相続税まで徴収する二重課税はおかしいのではないかという素朴な疑問に基づくものだ。

そのような論調の中で日本が相続税の強化を図るのは、時代に逆行した動きと言えるかもしれない。そもそも日本の相続税は、日露戦争の戦費調達のために設けられたもの。米国でも、外国との戦争に端を発している。手っ取り早い税収拡大策として、狙い撃ちしやすい領域であるのも実情だろう。

また、社会均一化という観点に立てば、もっぱら富裕層から徴収する相続税はよい税制と見られている。資産の大半を没収されるなら、寄付による社会貢献などで生前に使い切りたいと考える人が増え、滞留していたお金が流動化していく可能性もある。

このように相続税をめぐっては相反する2つの考え方があるものの、これまで日本で増税が検討されていたことは確かだ。もっとも、「それが現実となれば100人に8人の確率で相続税が発生する」などという試算はかなり乱暴。

こうした説が飛び交うようになったのは、相続税の基礎控除引き下げが検討されていたから。基礎控除とは、一定額を超えるまで相続税が発生しないように設けられたもの。この枠が狭まれば、富裕層でなくても相続税が発生する確率が高まる。しかしながら、2011年に実施されるはずだった基礎控除引き下げは、大震災を踏まえて先送りされた。



現金・預金よりも不動産。賃貸用の物件ならさらに有利!

ただし、実は別の方面からは、すでに相続税の課税が強化されている。2010年4月の改正によって、「小規模宅地等の特例」の適用条件が厳しくなったのだ。この特例は、被相続人等(財産を遺す人)が事業所や住居として使用していた土地を相続した場合に適用されるもの。相続税の計算時に、宅地の評価額を一定の割合まで減額できる措置である。

もともとこの特例は、相続税を納めるために住居を処分したり、廃業を余儀なくされたりするような事態を避けるために定められた。改正後は誰が相続するかで、申告期限までの保有義務や居住継続などの条件が細かく定められた。従来ならOKだった人が改正により減額をされず、相続税が発生する事態も生じている。

では、一般の人々が相続税を抑えるために事前に打てる対策はあるのか? まず知っておきたいのは、現金・預貯金よりも不動産で所有していたほうが相続税の面では有利だという事実だろう。なぜなら、相続税を計算する際に土地は、その実勢価格の約8割と評価されるからだ。1億円の現金・預貯金はその金額通りの評価だが、不動産なら8000万円とみなされて相続税が計算される。

しかも、同じ土地であっても、貸宅地や貸家建付地は更地よりも相続税計算上の評価が下がる。他人に貸していると、オーナーとはいえども、なかなか自由には処分できなくなるからだ。こうしたことから、相続税の節税を目的に賃貸アパート・マンションを建てるケースもある。

一方、自宅を配偶者に「生前贈与」しておくという手段もしくは対策もある。「生前贈与」とは、前もって相続財産を減らして節税を図る手段だ。後述の条件を満たした配偶者は、基礎控除の110万円に加えて、最高2000万円まで贈与税が発生しない。具体的には、婚姻期間が20年を超え、贈与資産が配偶者の居住用不動産(もしくは住まいの取得資金)で、贈与の翌年3月15日まで実際に住み、その後も居住し続ける見込みならOKだ。

また、「相続時精算課税制度」を活用するのも一考。贈与税と相続税を一体として相続時に精算するこの制度は、2500万円の特別控除額を超えなければ贈与税は発生しないため、相続税より高額な贈与税の心配がなくなる。

実質的な相続税の前払いで、特に?金の卵〞を生む資産を所有している人は注目すべきだ。

たとえば、賃貸アパート・マンションのオーナーがその物件を子どもに「生前贈与」し、仮に20年後に没したとしよう。その場合、目先で税負担があるものの、贈与後の賃料収入は着実に子供の資産となる。これに対し、ずっと自分が所有していたら、20年間に蓄積された賃料収入も相続税の課税対象となる。



長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)
東京弁護士法律事務所・代表弁護士、税理士

早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社の記者に。夜討ち朝駆けで多数の事件関係者に張り付く中で、当事者と一緒に悩む立場に身を置きたいと弁護士に転身。専門は相続税対策・事業承継・財産管理・遺言・遺産分割など。相続問題を題材にした処女作『磯野家の相続』(すばる舎)が大ベストセラーに。




この記事は「WEBネットマネー2012年12月号」に掲載されたものです。