悲観と絶望のふちから、新しい相場は生まれる
投資運用や相場の世界では、日ごろからマーケットという怪物を相手にしていることもあって、何事につけ素直に信じることが禁物のように考えられがちである。そんなものを相手にしていると、まずは疑ってかかったほうが賢い、といった考え方を持つ投資家が多くなる。素直に信じていたら、あっという間に大きくやられしてしまうと、それこそ信じて疑わないものだろう。だが今は、素直に新しい上昇相場の芽生えを感じ取ろうではないか。


米国も日本も株式市場で出来高が極端に細り、売りが完全に枯れている

マーケットとは力の世界であって、買いでも売りでも強いほうに相場の流れが傾くのは常識とされている。買いと売りの力関係そのものも、時々刻々と変化するから、株価にしても、上がったり下がったりを絶え間なく繰り返す。

そして、需給の力関係がもたらす株価変動に情報や臆測、そして思惑といったものが入り交じって、大小さまざまな影響を与える。

言ってみれば、マーケットで時々刻々とでき上がっていく株価には、あらゆる価値観や利害目的、欲望や恐怖などが織り込まれていることになる。

現在の日本の投資家は、長い低迷相場が続いた後なので、たとえ新しい上昇相場の芽生えが見え始めたとしても、絶対と言っていいほど信じようとしない。

株価はこれだけ悪材料が重なって下がっているのだ、こんなところで誰が買うのか。当分は相場上昇の可能性など、まったく考えられないの一点張りだ。むしろ、外資系証券会社などが売りを仕掛けて株価が大幅に下がるのを見ては、自分の弱気観に自信を深めるばかり。「見ろ、どう考えても相場動向は弱い」と、納得してしまう。

かつて米国の投資家、ジョン・テンプルトン氏は「相場は悲観と絶望の中で生まれ、不安と懐疑の中で育つ」と語った。

今、まさにそんな状況下にあり、株式市場は弱気と悲観に沈んだままである。だが、これは?素直に感じ取るしかない〞新しい上昇相場の芽生えと言っていいだろう。

それを裏づけるのが、米国でも日本でも出来高が極端に細り、歴史的にも異常に低水準な日々の売買代金だろう。売りが完全に枯れてしまっているのだ。

外国人投資家は日本株を買いたくて仕方ないが、超円高では手が出せない

相場が上向くはずはないと信じ込んでいる弱気派が「どうだ、まだ売られて下げている」と自信を深めているわりには、慌てて売りに走る投資家がそれほど出てこない。売りたい人たちは、もうほとんど売ってしまったのだろう。

売りが枯れてきているというのは、すごい好材料である。なにしろ、ここから先は買えば上がる状態だ。それを素直に受け取れる投資家にとっては、「そろそろ買いに入ってもいいだろう」という判断材料となる。そして、そういう投資家が徐々に増えていくのが、まさに?新しい上昇相場の芽生え〞である。それが今、日本株市場のあちこちで感じられるのだ。

ここで問題となるのが、個人投資家の多くがバブル崩壊後の下げ相場で、さんざっぱら痛めつけられてきたことだ。買ってはやられ、買ってはやられてきたから、上昇相場の可能性などまるで信じられない。一方、機関投資家はそれぞれの台所事情で日本株市場から去りつつある。たとえば、年金は2年前から新規の積み立てよりも高齢者への給付が多くなり、株式投資ポジションを減らしている。また、銀行は自己資本比率規制で、生保はソルベンシーマージン(※)維持で、リスク資産とみなされる株式保有をどんどん減らしてきている。投信は海外ものばかりに集中し、日本株投信の新規設定は低調そのものである。

こう見てくると、広い意味の機関投資家はどこも日本株市場で買いの主役とはなりえない。そうなると、いったい誰が日本株を買うのか? 外国人投資家は世界で最も出遅れている日本株を買いたくて仕方ないが、この超円高では手が出せない。ちょっと円安になるだけで大きな為替差損を被ってしまうからだ。

買うどころか、年金や銀行、生保が売ってくる? 心配するな。彼らは、日本株のポジションを減らしていく方向にはあるが、わざわざ株価を崩す叩き売りまではしない。戻りを待って、徐々に売り上がろうとしている。

※ソルベンシーマージンとは、保険会社の支払い余力のこと。予測できない事態が発生した場合に保険会社がどのくらい保険金の支払い能力があるかを示す数値をいう。ソルベンシーマージンとさまざまなリスクを考慮して数値化したものをソルベンシーマージン比率と呼び、保険会社の健全性を判断する指標となっている。

預貯金から株式投資への流れで、新しい日本株の買い主役が登場する!

では、どうすればいい? 

やはり、預貯金に眠っている個人マネーの出番だ。もう、それしかない。いずれ時間の問題で、預貯金マネーがこのままでいいのかということで揺れ始める。それは、年0.02%という超低金利がゆえの揺れだ。預貯金していても、この金利では10万円を20万円にするのに3600年もかかる不合理さに、もう辟易だとする動きが本格化するのだ。

そのきっかけとなるのが、個人が株を買ってみようという動きだろう。預貯金だけという人にとって、この株安は「ちょっと始めてみようか」という気になってもおかしくないところ。

ほんの少しでも株買いの動きが出始めたら、もう売りが枯れているから意外な株高が十分にありうる。そうなると、株を買おうという動きが横へ横へと広がっていく。

そして、「預貯金から株式投資へ」という動きが本格化し、大きな流れとなっていく。そうなれば、しめたものだ。新しい日本株買いの主役登場である。

澤上篤人(ATSUTO SAWAKAMI)
さわかみ投信代表取締役会長兼最高投資責任者

1947年、愛知県名古屋市生まれ。73年、ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン(現・ピクテ投信)代表取締役を経て、96年にサラリーマン世帯を対象にさわかみ投資顧問(現・さわかみ投信)を設立。『5年後の日本をいま買う長期投資』(小社刊)、『金融の本領』(中央経済社)など著書多数。



この記事は「WEBネットマネー2012年12月号」に掲載されたものです。