アップルの特許取得が大人げなさすぎる
米アップルvs韓国サムスン電子の訴訟合戦が泥沼化するなか、なんと、iPhoneやiPadの「丸みを帯びた長方形」のデザインに特許が11月上旬に認められた。
IT特許を専門にするテックバイザー国際特許商標事務所の弁理士、栗原潔氏がこう話す。
「アップルが2010年に出願していた『四隅が丸みを帯びた長方形』の形状について、日本の特許庁に当たる米国特許商標庁がデザイン特許を認めました。これは日本でいえば工業デザインに与えられる意匠権に該当する権利です」
丸みを帯びた長方形なんて……最近のスマホでは珍しくない形状だけど……。
「特許は取ったモノ勝ち。最悪の場合、『角が丸い! 意匠権侵害だ』とアップルに訴えられ、その主張を裁判所が認めれば、販売メーカーは販売差し止めか、巨額の損害賠償金の負担を強いられる可能性もあります」(栗原氏)
そんなむちゃが本当にまかり通るのか?
「今回とは別のデザイン特許ですが、アップルは過去にスマホ市場で熾烈なシェア争いを繰り広げるサムスンを訴えています。『ギャラクシーS』シリーズなどの形状がiPhoneに酷似していたことを特許侵害だと米カリフォルニア州連邦地裁に訴えたのです。最終的にはサムスンの侵害は認められませんでしたが、今回、新たなデザイン特許を取得したアップルが再度、訴訟を起こす可能性もないとはいえない」(栗原氏)
だが、こうしたアップルの姿勢にITジャーナリストの石野純也氏は首をひねる。
「角が丸い長方形のスマホなんて、アップルの意匠登録出願前からありましたから、アップルが仮に訴えたとしても法廷ではあっけなく無効になる可能性が大きいでしょう」
それにしても、特許を盾に競合他社を叩く……アップルのやり方はあまりにも大人げない!
「部品製造や組み立てを他社に委ね、デザインや設計に特化する“モノを作らないメーカー”のアップルにとって知的財産は生命線なんですね。他社にそこを脅かされたときの怒りはものすごいものがあります」(石野氏)
とりわけアップルが目の敵としたのがサムスンだ。近著に『図解 アップル早わかり』(中経出版)があるテクノロジーライターの大谷和利(おおたにかずとし)氏がこう話す。
「最近では独自の機能や仕組みを取り入れた製品を出すようになったサムスンですが、一昨年に発売したギャラクシーSは『よくここまでアップルをマネできたものだ』という仕上がりで(苦笑)」
以降、アップルがデザインや技術をサムスンにコピーされたと訴えれば、サムスンが訴え返すという構図で、世界10ヵ国で法廷闘争が繰り広げられるようになった。
「故スティーブ・ジョブズが、サムスン端末が搭載するグーグルのOS『アンドロイド』に対してもアップルのアイデアのコピーだとし、『水爆を使ってでも抹殺する!』と公式に発言したのは有名な話です。ところが、昨年8月に穏健派のティム・クックが新CEOに就任すると、アップルはそれまでの態度を軟化させ、今年5月には初めてサムスンと和解のための話し合いの場を持つところまで関係は近づきました。しかし、その席上でサムスンはアップル側の和解要請を突っぱねたんです。サムスンがここまであからさまな強硬姿勢をアップルに見せたのは初めて。おそらくジョブズの威光が薄れたと判断してのことでしょう」(大谷氏)
それを受け、両者の戦いは法廷の外にまで拡大。まずはアップル側からの強烈な先制パンチ。
「サムスンはiPhone5に搭載する主要部品のサプライヤーから外されました。CPUの製造は前機に引き続き、サムスンが受託したのですが、そのほかのモバイル用DRAMや液晶パネルといった基幹部品についてはサムスン製が採用されなかったのです。サプライヤー選定の際、アップルからほぼ原価割れの価格を提示されたとの話もあります」(大谷氏)
アップル恐るべしだが、サムスン側もすかさず反撃する。
「サムスンはiPhone5の発売日にアメリカ国内で挑発的なCMを流しました。アップルストア前で発売を待つ行列(エキストラ)にギャラクシーSIIIを持つ若者が近づき、iPhone5より大きな画面と、iPhone5にはない近距離無線通信の機能を見せ、『そっちのほうがいいじゃないか』とエキストラに言わせるという……(苦笑)」(大谷氏)
先の見えない両社のバトルは、いったいいつまで続くのだろう。
(取材・文/興山英雄)