【うちの本棚】第142回 銀杏物語/文月今日子

「うちの本棚」、今回も文月今日子の作品をご紹介いたします。

イチョウと銀杏の村に引っ越してきたチイ(千草)という少女が主人公の『銀杏物語』。
70年代の少女漫画の成熟度を示すひとつの例と言っても過言ではない完成度の高さです。

【関連:第141回 わらって!姫子/文月今日子】
 
『銀杏物語』は「別冊少女フレンド」の昭和50年11月号から51年1月号に連載された作品。また『白き森の地に』は昭和52年3月号に掲載された。
『わらって!姫子』の姫子をもう少し女の子らしくしたような、活発だが気遣いのあるチイこと千草が主人公の物語。

父親が教師で、地方の小学校の校長に就任したのをきっかけに、東京からイチョウで金色に染まった村に引っ越してきた千草たち。都会からの転校生と地元の子供たちという微妙な関係にも多少は触れつつも、明るく元気なチイのペースで物語は進んでいく。

小学校なので6学年あり、特に年の違う生徒が同じ教室で学んでいるというわけでもなさそうなのだが、登場する教師は、父親の校長とチイの担任の遠藤先生のふたりだけ。第3話ではチイの姉で大学生の初音も冬休みを利用して村にやって来て、将来は教師になりたいと告白していたりはする。

基本はチイを中心にした子供たちのふれあいを描いているのだけれど、教師の遠藤も村の出身で、貧しい村をどう改革していくか、そのために子供たちにどのような教育をしたらいいかと日々考えていたり、大人の読者にも充分手応えのある内容になっている。というより、ストーリー自体はテレビドラマや劇場映画として作られても、老若男女の鑑賞に堪えうるようなもので、「少女漫画」というレッテル付けは無意味だろう。昨今のコミック原作のドラマや映画の企画にこのような作品もラインナップして欲しいものだ。

タイトルでもある『銀杏物語』に関しては、村にイチョウの樹が多くあり、秋には銀杏が文字通り履いて捨てるほどであるところから付けられていて、この銀杏が第3話で予想外のクローズアップをされる。

村を象徴するものとして銀杏が取り上げられていて、特に銀杏にまつわる何か、があるわけではない。まあ、タイトルがストーリーの伏線になっているといってもいいのかもしれない。

『わらって!姫子』同様、本作でも文月の季節感の表現は冴えていて、秋から冬の田舎の風景は、そういう場所で暮らしたことのない者にも懐かしさを感じさせる。
『白き森の地に』はカナダを舞台にした、運命に翻弄されるひとりの女性の物語。こちらも重厚なストーリー構成で読みごたえも充分。この時点で文月は作家として完成してしまっていたような感すらある。

書 名/銀杏物語
著者名/文月今日子
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/講談社コミックス・フレンド
初版発行日/昭和52年7月15日
収録作品/銀杏物語(第1話〜第3話)、白き森の地に

銀杏物語

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/