大統領選挙でどちらが勝っても米国のドル安路線は長期化
米国の共和党は「富裕層」「小さな政府」寄り、民主党は「中間層」「大きな政府」寄りと報じられるが、ロムニー氏とオバマ氏のいずれが勝利しても「ドル安路線」は継続されそうな気配だ。日本が国家として円高是正の姿勢を示さなければ製造業の先行きはかなり危うい。


11月の大統領選挙に向け、現職のオバマ候補(民主党)とロムニー候補(共和党)がせめぎ合う中で、ともに到達する政治的選択がある。「ドル安路線」がそれだ。

ロムニー氏とオバマ氏の対立図式は「富裕層」対「中間層」、「小さな政府」対「大きな政府」というふうに報じられるが、歴史的に見ると「金融」対「製造業」という米国資本主義特有の構図が政治を動かす。もともと米国で製造業とは産業の主流という意味で「メイン・ストリート」と称され、金融業の「ウォール・ストリート」と対比される。いずれも米国を突き動かす国家経済のエンジンであり、歴代の政権は民主党、共和党を問わず、どちらかに力点を置いてきた。その政治的選択がドル相場を決定づける。

長期的に見れば、1971年8月の「ニクソン声明」(ドルと金の交換停止)以来の過程で多少の修正はあるが、最後はドル安政策に帰着する。

80年代の共和党レーガン政権は、2期8年間の前半は規制撤廃による金融市場活性化と「強いドル」を標榜したが、後半はドル高是正による製造業競争力強化にシフトした。90年代の民主党クリントン政権は当初、円高誘導による日本の?製造業たたき〞に邁進したが、95年半ばからはグローバルな金融自由化とインターネット関連(ドット・コム)株式ブームを後押しし、強いドル路線に回帰した。

2001年、ドット・コムのバブル崩壊直後に発足のブッシュ政権は「メイン・ストリート」の復権を目指し、製造業出身のポール・オニール氏を財務長官に据えたが、9・11米国中枢同時テロに遭遇し、金融市場は大きく揺らいだ。そこで選んだのがドル安容認策と、住宅ローン証券化商品乱発による住宅バブル創出である。家計に借金を促してモノの消費をあおり立てると同時にウォール・ストリートをバブルで太らせたという点では、製造業と金融の二兎を追った。リーマン・ショック後に発足したオバマ政権は、製造業の復活を1期目の最大の実績のひとつとしてアピールしている。対照的なのが日本である。



上のグラフは円・ドル相場と半導体など日米のエレクトロニクス生産を対比させている。代表的な半導体であるIC(集積回路)の日本での生産規模は、円安時の07年前半までは伸びたが、円高に転じた後は凋落の一途。対照的に米国の電子部品生産は急速な拡大基調を保ち、リーマン・ショック後は成長軌道に乗っている。このグラフでは省いたが、電子機器、自動車、航空機など耐久財総生産はV字形の回復を遂げている。

ドル安の決め手はFRB(連邦準備制度理事会)による金融緩和政策である。FRBは建前上、政治からの独立性が保証されているが、物価と並んで雇用の安定を義務づけられる。雇用情勢は大統領の再選がかかるだけに、時の政権も金融政策に重大な関心を寄せ、FRBと政権は国家基本政策をすり合わせる。ブッシュ政権の場合、9・11を受けてFRBのグリーンスパン前議長が超低金利政策に転じたし、オバマ政権の場合はバーナンキ議長がドル札の継続的増刷「QE(量的緩和)」を続けてきた。FRBはQEの第1弾(08年11月〜10年6月)、第2弾(10年11月〜11年6月)を通じて総資産をリーマン・ショック前の3倍まで積み上げた(下のグラフ)。ジャブジャブのドルは、量的緩和に背を向ける日銀政策のため発行量がさほど伸びない日本円の相場を押し上げ、超円高をもたらした。9月13日に踏み切ったQE第3弾は円高・ドル安路線継続のシグナルである。対する日銀は、小出しの緩和策で追随するいつものパターンだ。



オバマ政権は再選されると、製造業での雇用や中間層のテコ入れのためにますますドル安政策に傾斜していくだろう。ロムニー候補が勝利したとしても、米国経済を金融主導型に戻すにはまだまだ時間がかかる。歴代の共和党政権と同様、「メイン・ストリート」を重視し、ドル安政策を続けるにちがいない。「円高是正」の国家意思がない日本の製造業の先行きは危うい。

田村秀男(たむら・ひでお)
産経新聞社特別記者・編集委員兼論説委員

日本経済新聞ワシントン特派員、米アジア財団上級フェロー、日経香港支局長、編集委員を経て現職。『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『円の未来』(光文社)、『人民元が基軸通貨になる日』(PHP研究所)、『財務省「オオカミ少年論」』(産経新聞出版)など著書多数。今、政府・日銀の金融経済政策運営に対して数多くの有益な提言を行なう気鋭のジャーナリストとして注目を集めている。



この記事は「WEBネットマネー2012年12月号」に掲載されたものです。