平田オリザ(ひらた・おりざ)  劇作家・演出家、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、劇団「青年団」主宰、こまばアゴラ劇場芸術監督。1962年生まれ。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞、2003年『その河をこえて、五月』で第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。フランスを中心に世界各国で作品が上演・出版されている。  著書に『演劇入門』『わかりあえないことから』(以上講談社新書)、『幕が上がる』(講談社)等。ドキュメンタリー映画『演劇1,2』も公開中。

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オンライン上のコミュニティを活性化させるために「演劇」の力を活用すると聞けば、ちょっと意外だと感じるだろうか。だが、あながち突飛というわけでもない。
たとえば、インターネット上で率直に自分の意見を述べると、思わぬ反論が返ってきたり、不用意な発言をすれば“炎上”も招きかねない。しかしここに、あることを教える“先生役”と質問する“生徒役”といった役割を与えるとどうなるか。「自分が言ってるんじゃない、こういう役だからこう言ってるんだ」と役を盾にすることで、コミュニティ上のメンバーが一気に発言しやすくなるのだ。今回は劇作家・演出家の平田オリザ氏をお招きし、ソーシャルメディアと演劇におけるコミュニケーションの設計について考えていく。

劇作家はずっとコミュニケーションデザインを考えてきた

武田 「ソーシャルメディア」と「演劇」というと、あまり接点がないように思われるかもしれませんが、じつは私たちのソーシャルメディア運営の手法の一部は、平田オリザさんが書かれた『演劇入門』を参考にしています。

平田 ありがとうございます。興味深いですね。

武田 オンライン上に活気あるコミュニティをつくるのはとても大変です。コミュニティに集まる人々に、「さあ、自由に話してください」といっても困ってしまう。その場の設定や役割の指定など細かい配慮が必要になります。

 これに演劇のメソッドが使えるのではないかと思ったのがきっかけでした。

平田 それはおもしろい観点ですね。僕は、演劇のなかで、他人と交わす新たな情報交換や交流である「対話」を発生させるために、完全なプライベートでも、パブリックでもない場として「セミパブリック」という概念を考えました。セミパブリックな空間というのは、たとえば、ホテルのロビー、大学のロッカールーム、職員室などです。

 プライベートな空間で話されることというのは、単なるおしゃべりや「ああ」とか「うん」といった相づちが多く、じつは対話は少ないものです。また、完全にパブリックな空間というのも、多くの人が通りすがりですから、やはり対話は生まれづらい。なので、対話を発生させるには、セミパブリックな空間が必要になります。

 プライベートな場である家庭の居間であっても、設定によってはセミパブリックな空間になりえます。「娘の彼氏が初めて来る日」というように設定すると、「お父さんはずっと銀行勤めだから」と、登場人物がそれぞれの背景を説明してもおかしくなくなります。

武田 「他人」を登場させて、対話の構造をつくるということですね。

平田 はい。最近、教育の現場でも「対話型の授業」の必要性がいわれるようになってきました。演劇というのはずっとコミュニケーションをデザインしてきた分野なので、そのノウハウの一部を抽出すると、さまざまな分野のお役に立てることがあるわけです。

武田 だから、私も演劇に惹かれたのかもしれません。ソーシャルメディアを運営するうえでは、対話が起こらないというのは致命的ですから。

平田 それを聞くと、しーんとした学校の教室を連想しますね(笑)。僕は、小中学校の表現教育についての学会に出席することがあるのですが、そのなかで「子どもたちが自分の意見を発表することを非常に嫌っている」という報告がありました。理由は単純で、目立つといじめの原因になるからです。

 いま大人の社会もそうですよね。特にインターネット上で、不用意な発言をするとボコボコにされたりするじゃないですか(笑)。

武田 いわゆる「炎上」ですね。発言の場所と内容によっては、そういう事態もありえます。

平田 ところが、役割を与えると、とたんに子どもたちが発言しやすくなるんだそうです。「この役だから、こう言ってるんだ。おれが言ってるんじゃないよ」と、役を盾にできるからです。

武田 キャラクターを設定するんですね。

平田 そうなんです。それがうまく機能すると、話し合いのなかで深い本音がたくさん出てくるんだそうです。

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