ロンドンを中心に活動する覆面のグラフィティ・アーティスト、バンクシーの「You Are an Acceptable Level of Threat」と題された作品集が<Gingko Press>から出版された。



グラフィティとはゲリラ的に行われるものであり、強大な敵から権力、領域、栄光を奪い取ろうとする行為である。かつてバンクシーはそれを「復讐」と表現したが、一体誰に対する何の復讐だと言うのだろうか...。

1990年代初期に生きた者たちは、政治に携わる階層の権力が強大になっていく様をまざまざと見せつけられた。トニー・ブレア元英国大統領は階級戦争が終わったと宣言したが、かつて成功のために必要とされていたのは、英国の中にあったコーポレートカルチャー(労働組合)を助長するものであった。

「タグを付けるという行為は報復のためのようなもの。もし電鉄会社を持っていなければ、私はそこに行って電車に絵を描いてしまうのさ」サイモン・ハッテンストーンによって2003年に行われた<Guardian>紙のインタビューの際、バンクシーはそう語った。この頃から彼は作られた "クール・ブリタニア" 的なものを全て否定する姿勢を示すようになったのである。彼の "落書き" 行為はとても強固で継続的なものであり、やがて彼の作品は至るところで目撃されるようになった。

彼は私たちが単なる "ネズミ" のような存在であることを思い出させる。「もし下層社会階級であるならば」という前提において彼の考えは正しい。社会の仕組みは新しい労働党へ向けて変化 していき、力を "持つ者" と "持たざる者" の間には大きなギャップが生まれ、下層階級にとって厳しい情勢が続いていた。そんな中で彼のネズミたちはタフな生存本能を賞賛し、アイディアを出すこと、 ずる賢くなることを、残酷な社会を生き抜くための術だと定義したのである。

バンクシー作品の中に表現されているのは壮大なパロディだ。繰り返し継続することと、そのスケールによって、たとえどんなに小さな "声" であっても拡張させ力強いものにすることができるのである。そしてそれは権力を持っているものの基盤がどんなに脆弱であるかを示すことでもある。私たちは皆、広告やマスコミを通して向けられる雑音に弱い生き物だ。それらの雑音は催眠術のように私たちを惑わせていき、それを回避することは容易ではない。

バンクシーが行ってきたストリートアートとは、そういったプロセスを明らかにし、笑い飛ばすものであると同時に、権力がいかに作り上げられた物であるかを示すのである。