シングルタスクか、マルチタスクか? −「仕事が忙しい!」の9割は思い込みだった【8】

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みなさんは受け取ったメールの返事をいつ出しますか。私は原則的に読んだら5秒以内に返信します。すぐに返せば「了解」の一言で済むケースが多いからです。ただし、内容を吟味したいメールに関しては別。返事を書く余裕があっても、メールを受け取った旨だけ返信し、わざと未読の状態に戻して未読フォルダに置いておくようにしています。返事を意図的に遅らせることで、自分の中で知的熟成が起きることを期待しているのです。

仕事をやりかけのまま、あるいは一度完成された後で寝かせる時間をつくると、何が起こるのか。仕事をしていない間も問題意識が勝手に働いて、思考の材料を集めてくれます。その結果、まるで水蒸気が空中のチリを頼って水滴になるように、思考の結晶化が始まってアイデアが創造されていく。これが知的熟成です。

中国・宋の時代の政治家、欧陽修は、考えを練る場所は「三上」が適しているといいました。三上とは、馬上・枕上・厠上のことです。つまり移動中や睡眠中、トイレにいるときにアイデアがひらめくというわけです。これぞ知的熟成。目の前の課題をいったん手放して自由になるからこそ、発想が豊かになるのです。

仕事を計画するときは、知的熟成のために、隙間時間や中断期間を意図的につくるべきです。私の場合、3日間で終わる仕事は3週間、3週間で終わる仕事は3カ月の余裕を持ってスケジューリングをするようにしています。時間リスク対策だけなら1.4倍で十分ですが、時間を長めに見積もるのは、リスク対策だけでなく、知的熟成の時間を考えると、ざっくり5〜10倍の時間は欲しいからです。

ただ、本当は3日で終わる仕事に3週間かけていると、「仕事が遅い」「中断して放置するとは何事か」と受け取られかねません。そこでおすすめしたいのがマルチタスクです。

複数の仕事を同時並行で走らせると、仕事Aを中断して熟成している間に、ほかの仕事Bを進めることができます。仕事Bを熟成するときは、新たに仕事Cをしたり、仕事Aにもどってもいい。いずれにしても自分の稼働率100%を維持したまま、仕事を寝かせる時間をしっかりと確保できます。

一方、一つの仕事を完結させてから次の仕事に取り掛かる直列型のシングルタスクでは、仕事がABCと重なった場合、時間的制約が強くなり熟成期間を十分に確保することが難しくなります。もし熟成期間を取れても、その間の自分の稼働率はゼロになり、効率は落ちていきます。

1日のスケジュールも、マルチタスクで対応したいところです。第3回で、集中をキープするためには、自分の内的リズムや外的要因に合わせて、そのときベストな種類の仕事に切り替えるべきだと解説しました。実はそれが可能なのもマルチタスクで仕事を進めているから。シングルタスクだと、気分が乗らないときにもその仕事と無理して対峙するか、思い切って休憩するかの2択になってしまいます。つねに絶好調で仕事をしたければ、マルチタスクは必須の流儀なのです。

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ファンクショナル・アプローチ研究所 代表取締役社長
横田尚哉(よこた・ひさや)
改善士。世界最大企業であるGE(ゼネラル・エレクトリック)の価値工学に基づく分析手法を取り入れて、総額1兆円の公共事業改善に乗り出し、10年間でコスト縮減総額2000億円を実現させた。「30年後の子供たちのために、輝く未来を遺したい」という信念のもと、そのノウハウを潔く公開するスタイルは各種メディアの注目の的となっている。全国から取材や講演依頼が殺到し、コンサルティングサービスは約6カ月待ち。また、「形にとらわれるな、本質をとらえろ」というメッセージから生み出されるダイナミックな問題解決の手法は、業務改善にも功を奏することから「チームデザイン」の手法としても注目が高まっている。

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(ファンクショナル・アプローチ研究所代表取締役 横田尚哉=分析 村上 敬=構成 葛西亜理沙=撮影 ファンクショナル・アプローチ研究所=図版提供)