やるべき仕事・捨てる仕事をどう選ぶ? −「仕事が忙しい!」の9割は思い込みだった【7】

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仕事の取捨について考えるとき、私は建設コンサルタント会社に新卒で入社してきた若いエンジニアのことを真っ先に思い浮かべます。彼に与えられた仕事は図面の色塗り。地図に建設予定の道路が描かれて、それをプレゼンで説明しやすくするために、ひたすら色を塗ることを課せられたのでした。

半年経った頃、彼は単調な仕事に耐えかねて「もっと技術者らしい仕事をしたい」と訴えてきました。そこで私は図面を指さし、「この図面の縮尺は? このカーブは半径何メートル?」と質問をしました。彼は即答できず、図面に記入されている数字を読み上げようとしました。その様子を見て、彼がこの作業のファンクションを自分のものにしていないことがわかりました。

実は図面をパッと見ただけで縮尺や道路の半径を把握できる技術は、一流の建設エンジニアになるために欠かせないスキル。色塗りはそれを学ぶ絶好の機会だったのに、彼の目には、無理やりやらされた退屈な仕事として映っていたようです。

そのことを指摘すると、彼は次の半年間、一生懸命に色を塗っていました。与えられた仕事は同じでも、「誰のためか」「何のためか」というファンクションに対する意識を変えた瞬間から、仕事が“時間ドロボー”から“貴重な体験”へ変わったのです。

とくに意識してほしいファンクションは「誰のため」です。自分のためか、他人のためかという視点によって、時間の価値は大きく変化するからです。

自分のためか、他人のためかという2軸で仕事を整理すると、9つのカテゴリに分類されます。このとき、自分満足は低いが、他人満足が高い仕事は単なる「ストレス」です。また、自分は満足しているが、他人満足が低い仕事は「迷惑」といえます。前者は自分の時間を奪われた感覚が強く、後者は他人から快く思われずに後ろめたさに苛まれます。いずれにしても価値の高い時間とはいえません。

しかし、これらの時間も視点を切り替えることで、自分も他人も満足する「理想」の状態へ導くことが可能です。たとえば自分が集中して作業しているときに部下から話しかけられると「ストレス」になりますが、自分視点で「いまは内的リズムが情熱的だから、人と話したほうが自分にとっても効率がいい」ととらえなおせば、時間を奪われた感覚が軽減されて自分満足も高まっていきます。

また自分1人が楽しい「迷惑」仕事も、顧客視点でとらえなおしてメリットを提案することができれば、周囲の応援が得られて「理想」の状態に近づきます。こうして「自分→他人」「他人→自分」と視点を自在に動かせば、時間の価値は高まり、時間ドロボーに見える仕事をやるべき仕事へと変えていくことができるのです。

強く意識したいのは、自分から他人への視点切り替えです。普通は人生のステージが上がったり、経験が増えるにつれて、自分から仲間や家族、会社や地域、そして社会全体へと視野が広がり、公共的な視点を持つようになるものです。

仕事や社会生活の経験が少ないと視野が狭くなり、「自分の利益にならないのに、なぜこの仕事をやらされるのか」という思いにとらわれやすくなります。目の前の仕事は、社会的にどのような意義があるのか。その意義づけを習慣づけることによって、時間の価値は大いに高まるはずです。

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ファンクショナル・アプローチ研究所 代表取締役社長
横田尚哉(よこた・ひさや)
改善士。世界最大企業であるGE(ゼネラル・エレクトリック)の価値工学に基づく分析手法を取り入れて、総額1兆円の公共事業改善に乗り出し、10年間でコスト縮減総額2000億円を実現させた。「30年後の子供たちのために、輝く未来を遺したい」という信念のもと、そのノウハウを潔く公開するスタイルは各種メディアの注目の的となっている。全国から取材や講演依頼が殺到し、コンサルティングサービスは約6カ月待ち。また、「形にとらわれるな、本質をとらえろ」というメッセージから生み出されるダイナミックな問題解決の手法は、業務改善にも功を奏することから「チームデザイン」の手法としても注目が高まっている。

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(ファンクショナル・アプローチ研究所代表取締役 横田尚哉=分析 村上 敬=構成 葛西亜理沙=撮影 ファンクショナル・アプローチ研究所=図版提供)