「アメリカ人が大好きな野球」と「映画人が大好きなイーストウッド」が組んで涙腺を刺激する感動作!『人生の特等席』【最新シネマ批評】

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【映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します】

今回ご紹介するのは、11月23日公開のクリント・イーストウッド主演作『人生の特等席』です。いまや巨匠として世界中の映画人から尊敬のまなざしで見つめられるイーストウッド。しかし『人生の特等席』は、演出せず、俳優としての参加です。

監督はロバート・ロレンツ。新人監督ですよ。「イーストウッドが新人監督の作品に?」なぜか。それは、ロレンツ監督がイーストウッドの弟子(元助監督&プロデューサー)だから。『人生の特等席』は、師匠と弟子、初のコラボ作なのです。

イーストウッドが演じるのは大リーグ最高のスカウトマンのガス。敏腕な彼だけれど、年には勝てず、身体も弱り、視力も衰えています。球団は、そろそろガスには引退してもらいたい。でもガスはそんなこと思ってはいません。そんな老いた父を心配して、弁護士の娘ミッキーが、ガスのスカウトの旅に同行することになります。

実は何年も仲がこじれたままの二人。ミッキーは、父が母と死別後、幼い自分を親戚に預けて、一緒に暮らしてくれなかったことを許せないでいました。ミッキーは旅の道中、自分の気持ちを父にぶつけます。そしてガスは、なぜ自分が娘と離れ離れに暮らす道を選んだのか、その理由を語り始めました。その真実とは……。

最近は映画もドラマも凝った設定で見る物を惑わせる作品がけっこうありますが、この映画は直球ど真ん中!ストーリーもシンプルで、父と娘がスカウトの旅を通して心を通わせていく姿を丁寧に綴っていきます。父に反発する娘だけど、実はスカウトのセンスがあり、視力が衰えた父を娘の目がサポートするという展開は見事。もうキレイに決まり過ぎなほどです。

イーストウッドはこの役を演じるにあたり、多くの大リーグのスカウトマンを取材しました。ニューヨーク・メッツ、デトロイト・タイガース、ミネソタ・ツインズ、アトランタ・ブレーブスなど。取材の経験をイーストウッドはこう語っています。

「スカウトマンは、心理学者的な素養も必要なんだ。17,18歳の選手に巨額の契約をさせるのだからね。プロの大リーガーになれる素養があるか、生活できるかを見極めないといけない。本人、家族だけじゃなく、近所の人にも話を聞くんだ。見込み違いをしないようにね」。

そうやって将来のスターを見極めるのがスカウトマンの仕事であるわけです。でも『人生の特等席』でガスは、未来のスター選手を見極め、その心を理解することができるけれど、なんと娘の心はわからないのです。この映画は、そんな人生の皮肉もチラリと描き、実に巧いです。

しかし、何より記者が驚いたのは、スカウトマンは旅人だってことです。確かに各地に存在するであろう金の卵を探すのですから、旅人にならざるをえないわけです。この映画ではダイナーとモーテルと野球場がよく出てきますが、この3ポイントを渡り歩くのがスカウトマンの仕事。わざわざ来たのに「?」という選手もいるだろうな〜と余計なことまで考えてしまいました。

でも最近は、有望選手をネットでチェックするのも可能になり、スカウトマンの仕事も変わってきているようです。ガスは足を運んで自分で見て判断することにこだわりますが、パソコンで選手を見て声をかけるスカウトマンも登場。アナログVSデジタルの闘いも『人生の特等席』では描かれています。野球好きは興味深いかもしれませんね。

野球映画といえば、昨年は『マネーボール』という傑作がありました。なぜかアメリカの野球映画って良作が多いんですよね。『人生の特等席』もしかり、野球映画にハズレなし。きっとそれは、アメリカ人の野球愛が映画の質も押し上げているのかも。アメリカ人の大好きな野球と映画人が大好きなイーストウッド。『人生の特等席』は最強タッグの映画と言えるでしょう!

(映画ライター=斎藤 香)

『人生の特等席』
監督:ロバート・ロレンツ
2012年11月23日(金)公開
出演:クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョン・グッドマン、ロバート・パトリック、マシュー・リラード、ジョー・マッシンギル
(C)2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.


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