NPOカタリバ代表理事 
今村久美氏

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NPOカタリバ代表理事 今村久美(いまむら・くみ)
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学中より「カタリバ」を始め、2006年に法人格を取得。09年内閣府「女性のチャレンジ賞」受賞。文部科学省生涯学習政策局政策課教育復興支援員。明治学院大学非常勤講師。

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私は「部下に尊敬されている」と思ったことはありません。この企画も一度はお断りしました。ただ、私たちのやり方を紹介することが、皆さんの役に立つのであれば、と思ってお引き受けしました。

私の経験からいえることは、特定の個人が尊敬を集める組織よりも、スタッフ全員が理念や活動を理解し、志を共有している組織のほうが強いということです。

大学生だった私が友人とふたりで高校生のキャリア教育を支援するNPO「カタリバ」を立ち上げたのは、12年前。私自身がそうだったのですが、学習できる環境は整っているのに、将来について考える機会が少ないためか、成長しようという意欲に乏しい高校生が多いと感じていました。

カタリバでは、高校の授業に大学生や社会人のボランティアを派遣しています。少し年上の先輩と将来について真剣に語り合う体験は、大きな刺激になり、社会に目を向けるきっかけになるんです。

設立当初は、何をやるにも手探りの状態でした。スタッフの数も少なく、全員で話し合いを繰り返しながら、カタリバというNPOが何をすべきかを考え、共有していくことができました。

けれども、現在では約4500人のボランティア登録を集めるまでになりました。有給職員は47人。組織が大きくなり、さまざまな機能を「仕組化」していく過程で、“語り場”で働く職員たちの間で、話し合う機会が減っていることに気付きました。

職員のなかには、教育を学んできた者もいれば、一般企業から転職してきた人もいます。職員の背景が多様だからこそ、「カタリバのミッションとは何か」を常に考え、話し合っていかないとサービスのクオリティが落ちてしまう。私たちの活動は自己満足だけでは続きません。それだけは避けたいと思いました。

そこで、まず私と7人の幹部スタッフの間で、徹底的に話し合う時間をつくりました。その内容を踏まえて、幹部スタッフが職員たちとミーティングをし、さらに職員たちがボランティアのスタッフに伝えていく……。そんな地道な対話を重ねることで、全員にカタリバのミッションを理解してもらえる環境を整えました。

■被災地での学習支援まずは現地に張り付く

対話の力――。それをいままさに痛感しているところです。カタリバでは、東日本大震災で津波被害がひどかった宮城県・女川町と岩手県・大槌町で、行政や家族、地域の方々の協力を得て、中学生向けに「コラボスクール」という無料の学習塾を開いています。震災が起きたとき、私たちに何ができるかを考え、すぐ現地調査に入りました。その結果、学校が避難所に転用されることなどから学習できる環境さえも失われていることを知りました。いま女川では約200人、大槌では約90人の中学生が毎週通ってきます。

当初は行政や学校に子どもたちの学習支援をしたいと申し出ても相手にされませんでした。先生方は被災者でありながら、避難所となった学校の運営も任されていて、とにかく多忙。さらにボランティアとのミスマッチの問題もありました。多くのボランティアは数日間で帰ってしまう。子どもたちはそのたびに喪失感を持ちます。避難所で催しが開かれても、子どもがほとんど集まらないといった活動も目にしました。

原因は、行政や学校とのコミュニケーション不足です。誰に対してどんな支援をしたいのか。学校の先生方や地域の人たちとの対話が第一だと思いました。

「長期でやります」「震災を乗り越えた子どもたちの可能性を引き出すお手伝いをしたい」……。

女川では、教育長にお会いするたびに、そう繰り返しました。行政や学校などに何度も足を運び、関係者に顔を覚えてもらいました。校長会で5分だけ時間をいただき、職員会議に参加させてもらって……。問い合わせにはすぐに応じられるよう、被災地に家も借りました。いま私が東京にいるのは1カ月のうち、5日ほどです。

私が被災地での活動に力を注げるのも、ミッションを理解して、志をともにするスタッフが支えてくれているから。尊敬はされていないと思うけど、スタッフとは信頼関係をしっかり築けている。そう実感しています。

※すべて雑誌掲載当時

(NPOカタリバ代表理事 今村久美 構成=山川 徹 撮影=佐藤 類)