なぜ日立は景気低迷下で20年来の黒字を出せたのか

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「定点観測をしていれば景気が読める」「10分あれば報道の真相がわかる」震災の復興シナリオから企業の大型合併、不況下で高い利益率を誇る業界の仕組みまで、世の中の事象を正しく見るコツを数字のプロが解説する。

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小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶(こみや・かずよし)
1957年、大阪府生まれ。81年京都大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。岡本アソシエイツなどを経て、96年小宮コンサルタンツ設立。『数字で考える習慣をもちなさい』『「1秒!」で財務諸表を読む方法』など著書多数。

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10年9月期の中間連結決算で最終損益が1580億円の黒字になった日立製作所。2月に発表した10年4〜12月期の連結決算では最終損益が2201億円の黒字で、これは91年3月期(2301億円)以来の高水準ということです。

09年3月期の決算で7873億円の最終赤字ですから、2年で1兆円近くという見事なV字回復を果たしたことになります。

この10年の損益計算書を振り返ってみると、10年前の01年3月期の売上高が約8兆4000億円。07年に10兆円、08年に11兆円を突破したものの、リーマンショックが直撃した09年以降は売り上げを下げていました。

そうした状況下で、日立が活路を見出したのは海外です。セグメント情報で「国内・海外の売上高」を見てみると、10年度第3四半期までの連結の国内売上高は約3兆7800億円。前年同期比で104%です。一方、海外売上高は約2兆9800億円と金額では国内売上高に及ばないものの、前年同期比は113%。

なかでもアジアでの売り上げの伸びは目覚ましく、前年同期比で127%。売り上げ全体に占める構成比でもアジアは23%で、国内の56%に次いで海外で最も高い。急速な業績回復を支えたのがアジアを中心とした新興国市場でのビジネスだったことが見て取れます。

いまは大企業、特にモノづくりをしているメーカーほど国内市場での閉塞感が強い。日立は事業売却や工場再編、人員削減などのリストラで収益体質を強化しながら、一方では経営資源を成長分野に集中投下する「集中と選択」によって、事業ポートフォリオの最適化を進めています。

事業ポートフォリオというのは、一つの会社が手掛けている事業の組み合わせのことです。「総合電機」の看板を掲げている日立のような企業は、さまざまな事業を手掛けることでリスクを分散しながら収益を上げる仕組みになっています。リスクは低いが安定的に稼げる事業部門と、リスクは高いが成長が見込める事業部門とを組み合わせることで成長と安定のバランスを取るのが事業ポートフォリオです。

日立のセグメント情報で「事業部門別売上高・営業損益」を見てみると、金額ベースの売り上げが一番大きい事業部門は情報・通信システム。利益が一番大きいのは高機能材料事業部門で、特殊鋼や磁性材料、電線・ケーブル、半導体・ディスプレー材料、合成樹脂加工品など幅広い材料を取り扱っています。

こうした事業ポートフォリオがうまく機能し始めたのも、アジアを中心とした新興国の市場が伸びたおかげです。国内需要も新興国のおかげで伸びるような傾向があります。自動車産業などはそれが顕著で、国内でつくっている車もそうだし、国内でつくっている部品と合わせると40%程度は海外に輸出しています。

福島第一原発の事故の影響は少なくありません。米国の原子力プラントメーカーであるウエスティングハウスを買って原発事業への「選択と集中」を明確にしていた東芝も相当厳しいと思いますが、GEと原子力事業の合弁会社を設立した日立としても事業戦略の大幅な見直しを迫られることになるでしょう。国内外問わず、新規の原発受注は難しくなりそうです。

日立の電力システム事業の売り上げ構成比は8%で、利益で見ると5%程度を占めています。ただし、日立は原発だけではなく、火力発電プラントもつくっています。国のエネルギー政策の転換などで、こちらが伸びる可能性もあるかもしれません。

※すべて雑誌掲載当時

(小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶 構成=小川 剛 撮影=市来朋久)