『ふがいない僕は空を見た』

監督:タナダユキ

キャスト:永山絢斗、田畑智子、原田美枝子、窪田正孝、三浦貴大、山中崇

 
(C)2012「ふがいない僕は空を見た」製作委員会

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今週末から公開される『ふがいない僕は空を見た』が業界内で高い評価を受けている。本作は、第24回山本周五郎賞受賞窪美澄の小説を映画化した群像劇。といっても、本コラムの見出しに書かれた“アニメ好きの主婦と高校生が恋に落ちる”……のでは“青春”のイメージは難しいかも知れない。しかし本作はれっきとした青春ストーリーなのである。しかも、30代女性の抱える切なさ、辛さにまでも踏み込んだ、様々な人間たちの成長の物語でもある。

ストーリー


アニメ好きの主婦“あんず”(田畑智子)は自分の好きなキャラクターに扮して、アニメイベントで同人誌を売っていた。そこに、偶然現れたのが自分が愛するヒーローのキャラクターに似ている高校生の卓巳(永山絢斗)だった。2人は、旦那のいない時間にあんずの部屋でコスプレをして情事に耽るようになる。回数を重ねてゆくうち、ある日2人には予期せぬ出来事が起こり、状況が一変してしまう……。

30代女性が追いつめられていく、その孤独


アニメ好きで、主婦なのに高校生と、しかもコスプレして……とストーリー紹介だけでは、「ヒロインの“あんず”に共感できなさそう」と感じる女性も多いかも知れない。しかし、本作を見た女性の間では「まるで他人事とは思えない程、心の痛みが伝わってくる」と、あんずに共感する声が圧倒的に多い。というのも、彼女がアニメに心酔しコスプレまでしてしまうには理由があったのだ。それは、なかなか妊娠しない事で姑になじられ、あんずの心情を察することなく、夫が身勝手なセックスを強要するという現実から逃れるため。

姑からは妻失格の烙印を押され、夫にも拠り所を求められず、日々孤独に苛まれていく日常のなかで、純粋にあんずを抱いてくれる高校生の卓巳との情事だけは全てが受け入れてもらえる、幸せなひとときだった。

本作では、不妊治療を繰り返しては失敗に終わり、日に日に追い詰められ、卓巳に逃げ場を求めてしまう“あんず”の心の光と闇が丁寧に描かれる。と同時に、どこか所在なさげな、、その居場所をあんずに求めているかのような高校生の卓巳の姿もまた繊細に描かれることで、2人それぞれの“生と性”が浮き彫りになってゆく。


本作の世界を創りあげた監督・キャスト


本作の監督を務めたのは、『赤い文化住宅の初子』『百万円と苦虫女』など業界内外から熱い支持を受けるタナダユキ。本作は青春映画史に残る傑作との呼び声も高く、第37回トロント国際映画祭「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門にも正式出品された。

またダブル主演で、ナイーブなシーンの数々を演じ切ったのは、『ハッピーフライト』『毎日かあさん』『ロボジー』の田畑智子と、サントリーチューハイ「ほろよい」CM、『ぱいかじ南海作戦』『I'M FLASH』等、活躍めざましい永山絢斗。

他にも、助産師の卓巳の母に原田美枝子、痴呆症の祖母と暮らし、生活費を工面するのに必死な卓巳の親友・福田(窪田正孝)といった登場人物たちも登場し、それぞれの現実と向き合って生きる姿が印象に残る。

さいごに


ここ数年30代、40代の女性が、美魔女ブームで華々しい美しさをアピールして活躍したり、起業してビジネス業界からも注目されたりしている。その一方で、ひょっとしたら“あんず”のように、たとえ“不妊”ではなくても、結婚・出産・キャリアetc……今ある現実を打開することも出来ず何かのリミットに追い詰められたり、孤独になっている女性も多いのかも知れない、と思う。

タナダユキ監督は、そんな“あんず”を始め、登場人物たちの現実を決して生ぬるくなく、でも優しい眼差しで描いた。見終わった後は、なかなか余韻の覚めることのない、そして自分がこれから踏み出す一歩がどんなに小さくても、それを大事にしたいと思える、そんな作品だった。
(mic)