もしも科学シリーズ(17)もしも富士山が噴火したら


今年の富士山の初冠雪は9月12日。雪化粧こそ美しい。



そんな富士山が噴火したらどうなるのか? 付近一帯は噴石と火砕流で破壊され、風に運ばれた火山灰は日本の機能を麻痺(まひ)させる。駿河湾まで達した溶岩は交通網を寸断し、10年規模の被害を日本に見舞うことになるのだ。



■キレる富士山



富士山は日本で一番高い山で、日本最大の活火山だ。およそ70万年に「先小御岳」として誕生し、その後3回の大規模噴火で現在の「新富士山」となった。それ以降も、奈良時代から現在までに10回の噴火が観測されている。平安時代の貞観(じょうがん)噴火では、青木が原(あおきがはら)樹海を溶岩で埋め尽くし、「せのうみ」と呼ばれていた湖を精進湖と西湖に分断した。



最後の大がかりな活動は1707年の宝永噴火で、江戸にまで響く爆発音と16日間に渡る噴火が記録されている。幸いにも溶岩は流出しなかったようだが、大量の火山灰が家屋を埋め尽くし、河川をせき止め洪水を引き起こした。



781年の貞観噴火から宝永噴火までおよそ1,000年。期間と回数で単純計算すると、富士山が我慢できる限界は100年間となる。1707年以降は噴火していないので、現在は許容量の300%を越える。人間ならいつキレもおかしくない状況だ。



耐え難きを耐えた富士山は、ある日鬱憤(うっぷん)を大量のガス、噴石、火山灰にして天へと突き上げる。山頂にマグマが達するのを待てず、中腹から噴火する可能性が高い。噴火高度が25kmを超える火山爆発指数(VEI)5では、二酸化窒素やちりが長期に渡り成層圏を曇らせる。VEI=6以上となると火口付近を吹き飛ばし、爆発カルデラと呼ばれる窪(くぼ)地を生み出すこともある。いびつに変形した富士山など見たくもないのだが。



最初に感じる異変は、噴火の衝撃が生み出す空振(くうしん)だ。低周波なので人間には聞き取れないが、建物や窓を揺らし、ガラスを割ることもある。



つぎに火山灰がやってくる。周辺一帯を埋め尽くすだけでは満足せず、偏西風に乗って関東地方を攻撃する。予想される年間降灰量は、ふもとで1m、神奈川は20cm、川崎や千葉が10cm。東京都心は数cmだが、交通をマヒさせるのにじゅうぶんな量だ。



名前は灰だがガラス質なので、水に流すことも家庭ゴミにもできない。焼却炉やジェット・エンジンに吸い込まれると、溶けて内部を焼き付かせる。視界不良とあいまって、羽田と成田空港は無期休業だ。



目に入れば結膜炎や失明、吸い込めば塵(じん)肺の原因となるので、外出時はスキーのゴーグルや防護メガネ、防じんマスクが手放せない。身じたくが整ったら日課の「灰かき」だ。放っておけば重みで屋根がつぶれるし、側溝が詰まれば汚水があふれ出す。梅雨は特に念入りに。水を吸った火山灰は重さが増し、木造家屋など指先ひとつでダウンさ。



■富士山より生中継



この瞬間に富士山を登るあなたは、地獄を体験する。



まず噴石の洗礼が始まる。噴火の勢いで飛び出す噴石は、400〜500℃の高熱と銃弾並みのスピードであなたを貫こうとする。どこに逃げるべきか?と考えるだけムダだ。噴火口から全周に向けて飛び出す噴石から、安全な場所などありはしない。ふもとを目指してひたすら走り続けよう。



迷わずいけよ、いけばわかるさ。



つぎに来るのは火砕(かさい)流だ。600℃に達する炎のなだれは、火山灰や岩石を巻き込んで時速100km程度であなたを追いかける。クルマで富士スバルラインを全力で下っても、道なき道をいく火砕流にはかなわない。火砕流が溶かした雪は融雪(ゆうせつ)泥流という名の土砂崩れに変わり、さらにあなたを追いかける。見事な連携プレーだ。



最後は主役、溶岩流が登場する。玄武岩(げんぶがん)質の溶岩流は1,200℃に達し、はや足程度のスピードで低地を目指す。山頂より北で噴火すれば富士五湖に流れ込んで水蒸気爆発、南側なら富士市と富士宮市を殲(せん)滅したのち、東名高速道路と東海道新幹線を焼き切って田子の浦港あたりに流れ込む。



万葉集で、山部赤人が富士山を詠んだ場所で潰(つい)えるのも、なにかの縁なのだろうか。



溶岩が冷めるには1年程度かかるので、復旧作業もままならない。ちりで曇った成層圏が透明さを取り戻すにも数年かかるだろう。



被害総額はおよそ2.5兆億円。日本の夜明けは遠い。



■まとめ



今年8月に内閣府が発表した「南海トラフ巨大地震」の被害想定では、富士山は震度6強から7の範囲にあたる。これがマグマだまりを刺激すれば、噴火は避けられない。



備えあれば憂いなし。マスクとゴーグルを防災グッズに追加しておこう。



(関口 寿/ガリレオワークス)