【無所可用】第46回 「クハ」でも「モハ」でもありません〜変わった車両型式のおはなし〜

毎度ほぼ生活に役立たない話題をおとどけしております「無所可用、安所困苦哉」でございます。今回は鉄道ファンをやっているとよく聞かれる「モハとかクハとか、あれは何?」という話。今回は、JRや大手私鉄で使われる記号から少しはみ出たお話をおとどけします。ちなみに旅客車両に限定し、機関車や貨車は含まないものとします(貨車には、家禽車「パ」とか活魚車「ナ」とかすごいのもあるのですが、範囲が広すぎてムリです。

【関連:第44話 工事トロッコに憧れて〜立山砂防軌道のおはなし(前)〜】

 

JRの電車には「モハ」「クハ」「サハ」「サロ」なんてのが書いてあります。電車ではない、ディーゼルの場合には「キハ」「キロ」と表記されています。

運転台があるのが「ク」で、モーターが付いてるのが「モ」で、間に挟まって動力もなにもないのが「サ」です。
この語源には諸説あり、「ク」は「駆動」説、「くっつける」説、「クォントロール」説などありますが、まぁよくわかりません。「サ」はもっとわからず、「さぶらう」説、「差し挟む」説などがあります。「モ」はモーターですが、明治時代は「デ」と読んでました。電動車だからデ。現在でも京浜急行、東急などでは「デ」です。「デ」と「モ」を使い分けている鉄道もあります。
「キ」は気動車のキということでわかりやすいですね。
うしろの「ハ」は、普通車を意味します。古くは、旧鉄道省では3等級制をとっており、一等車が「イ」、二等車が「ロ」、三等車が「ハ」でした。2等級制になったときにイを廃止して、「ロ」と「ハ」になり、さらに等級制からグリーン車に引き継がれます。少数ながら車内を分割してグリーン車と普通車の合造になっているものがあり、この場合は「ロハ」と表記されます。合造車は少数派ですが、現役でちゃんと存在しています。

【写真:サロハE257】
サロハE257

しかしそもそも「ロ」が存在しない私鉄では、どうせ全部普通車だからと「ハ」を使用せず、「ク」「モ」「サ」だけの鉄道もあります。最も、私鉄の場合は番号だけを表記している場合が多いですので、正式名称はわかりづらいです。

電車と気動車以外、貨車とか動力を持たない客車(機関車に牽引されるもの)については、あまりにもややこしいので、どうしても知りたい方はおたくま経済新聞までご要望ください。

 

さて、旅客車に限って、これまで述べた原則に当てはまらないものをいくつかご紹介しましょう。

●「デオ」「デナ」

アニメ「けいおん!」で注目を浴びた叡山電鉄では、独特の形式の車両が走っています。この鉄道では「デオ」「デナ」という形式を使っています。デは電動車ですが、「オ」と「ナ」ははなんぞや?これは実は「大型」「中型」を示しています。車両の大きさをしめしているのですね。もっとも、叡山電鉄での大型といっても車体長は16mクラスで、JRの一般的な電車のサイズである20mよりかなり小さいですが。
この鉄道も、普通車しかないので、「ハ」は無くてもいいということなのでしょうか。

●「ガソ」

だんだんわからない記号を出して参りますよ。
「ガソ」というのは、福島県の沼尻鉄道にあった車両です。ガソリン動力で走る、いわゆる気動車の一種です。ガソリンのガソです。
しかし、あくまでも私の知る限りにおいて、ガソリンで走るからガソ、という名前を付けられた車両は他に知りません。ちなみに沼尻鉄道の普通車には「サハ」「ボハフ」など、一応「ハ」が入っていますけれど、「ガソハ」にはしなかったんですね。
年代を超えて多くのファンに愛されており、何度も模型化されていますので、ネットで検索していただければその姿を見ることはできます。検索時には「沼尻鉄道」を付けることを忘れないように。

●「ホジ」

ホジには、現物にお目にかかったことがあります。この形式を見たときは、目がテンになりました。何を意味しているのか、サッパリわかりませんでした。走っていたのは岡山県の井笠鉄道。お目にかかったのは、井笠鉄道廃止後にホジ3を引き取った下津井電鉄の下津井駅でした。また新潟県の頸城鉄道にもホジを名乗る車両がありました。
ここでお目にかける模型は井笠鉄道ホジですが、見た目はなんてことのない気動車です。ではなぜ、「ホジ」なのか。

【写真:井笠鉄道ホジ】
井笠鉄道ホジ

ちょっと歴史を紐解きますと、そもそも井笠鉄道には「ジ」という車両がありました。「自走する客車」ということです。自走しない普通の客車は「ハ」でした。前に何もつかない、「ハ」だけです。「ジ」と「ハ」は、「二軸車」と言われる、馬車のように車軸2つ、車輪4つだけの、小型な車両です。
そこへ「ホハ」が現れます。「ホ」とは、ボギー台車をつけている、という意味。現在みられる多くの鉄道車両と同じく、首を振る台車の上に車体を載せたものです。たくさんのお客や荷物を乗せるためには車体を長くする必要があり、そうすると二軸車ではカーブを曲がれないため、こうしたボギー車が登場したのです。
ということで、ホハの「ホ」は、ボギーの「ホ」です。そして、「ジ」のボギー版が「ホジ」というわけです。
ワタシはこの「ホジ」という、ややゆるい音がとても気に入っています。ナローゲージならキハじゃなくてホジだろう!と(がしかし、ほとんどの私鉄は無難に「キハ」を採用しています)。

●そもそも記号も番号も書いてない

北海道の最東端、根室に、かつて「根室拓殖鉄道」という鉄道がありました。
この鉄道については、これだけでひとくさり語れるのですが、今ある本に出ている写真の範囲で、どれを見ても、車体に記号のレタリングがありません。そのため、形式にも諸説あってよくわかりません。その他にもいろいろエピソード豊富な鉄道なのですが、今回は車体に形式表記も番号もない、「そんな鉄道もあったんだ」という程度にご紹介しておきます。

【写真:根室拓殖鉄道銀龍号旧】
根室拓殖鉄道銀龍号旧
【写真:根室拓殖鉄道銀龍号改造後】
根室拓殖鉄道銀龍号改造後

この銀色の車両は原設計はトラックであったといわれており、「銀竜」と呼ばれていたそうです。その後改造により水色に塗装されたとのこと。
また、運輸省の所轄ではなかった、北海道にのみ存在した簡易軌道も、形式をつけない場合が多かったようです。日本にもこんな鉄道車両があったのです。こうした車両も模型で再現できるのは、なんともうれしいことですね。

【写真:浜中町営軌道自走客車・無番号】
浜中町営軌道自走客車・無番号

(文・写真:エドガー)