受験を超えた最高峰の学びを提供し世界に通用する教育をデザインする

ハイパー学生のアタマの中 Vol.15

慶應義塾大学 諸澤正樹さん

高校在学中にスタンフォード大学での短期研修を経験。そこから見えた諸澤さんが目指す道とは?


■年齢を言い訳にしない、自分の「やりたい」に妥協しない

両親の話を聞くと、僕は幼少期から人一倍好奇心が強く、凝り性だったそうです。幼稚園では昼寝の時間になっても、ひとり外遊びに夢中になっているとか。今でも変わらず、好きなことであれば時間を忘れていくらでも没頭できます。そんな性質が功を奏してか、小学生のころから勉強は苦にならず、とりわけパズルみたいに問題を解いていく算数・数学が好きでした。

放任主義だった両親は、これまで僕に「勉強しろ」と言ったり、何か習い事を強制してきたりしたことは、一度もありません。ただ、僕が「やりたい!」と言ったことは、塾でも野球でも、何でもやらせてくれて。逆を言えば、自分で「やりたい!」と言って行動を起こさなければ、何も与えてくれません。この両親の教育スタンスのおかげで、小学生の低学年くらいのころから「やりたいことがあったら、自ら主体的に動かないといけない」という意識を強く持つようになっていました。これは、今の自分を形作ってくれている、大切な信条のひとつです。

人生の大きな転機は、高校2年生のときにやってきました。学校の同級生が日本では初となる新型インフルエンザの感染者になったのです。周りにどんどん感染者が増えていって、間もなく学校は2週間もの間休校されることになりました。このとき持ち前の信条が僕を動かしました。「自分に何かできることがあるはずだ」と。このころ、ちょうど学校の授業に物足りなさを感じていて、「先生から与えられる知識を覚えるだけの勉強ではなく、もっと深く進んだ、直接的に社会問題の解決に貢献できるような勉強がしたい」と考えていました。そこで僕は、“研究”というアプローチでこの問題解決に取り組もうと決心したんです。

そうは言ったものの、“研究”とはどういうふうにするものなのか、当時の僕には、まったく見当がつかなかったので、ネットで調べたり文献に当たったりと、いろいろな手段を使って研究方法を模索しました。そこで初めて、今僕が専門としている“数理科学”という分野に出合ったんです。

数理科学は端的に説明すると、基礎的な数学の知識を応用して社会問題などの解決に役立てていく学問領域です。数学が好きな自分にはうってつけの方法論でした。数カ月間、数理科学の概念や必要なコンピュータの知識を独学で猛勉強した末、オリジナルの数理モデルを考案し、感染者がどのように増えていくかシミュレーションするアルゴリズム(問題を解くための効率的手順)を構築できるまでになりました。当初、周りからは「高校生にそんな高度な研究はできるはずがない」などと言われたりもしていたんですが、「年齢や経験量を言い訳にして何もしないのはおかしい」と強く思っていたし、「当事者である自分だからこそ、わかること、できることが必ずある」と信じて研究に没頭しました。

この研究成果がさまざまな場所で多くの人に評価されたことによって、僕の行く道は大きくひらけました。日本中の優秀な学生や著名な先生と交流する機会も増え、なにより、世界的に見ても最高峰の教育機関であるスタンフォード大学で短期研修させてもらえたことが、のちの自分にとって大きな指針となりました。

進路については、将来は研究者になりたいと思うようになっていたので、初めは国内で最先端の研究環境を持つ東京大学を目標にしていました。しかし、よくよく考えて「自分が魅力を感じていたのは東大の研究機関であって、東大の教育ではない」ということに気づきました。研究はその気になればどこでもできる。東大に入れば研究者としての順風満帆なレールに乗れるけれども、それではほかの可能性が狭まってしまう。専門を自分のペースで自由に追究しながらも、マーケティングや経済学などにも触れ、さらに自分の可能性を広げたいという希望をかなえたい。そんな思いから、学問領域を横断的に学ぶことができる慶應義塾大学の環境情報学部(SFC)をAO入試で受験し、合格することができました。


■自分が世界を変えられると、本気で信じている

大学に入ってからは、勉強のかたわら、自分がこれまでに感じてきた“問題”を解消するための活動に力を入れ始めました。そのひとつが、Science No.1という学生団体の発足です。全国の大学生研究者を集めて、「科学の力で世界を変える」という理念の下、定期的に勉強会などを開催しています。

日本では若年層の研究者が少なく、いたとしても周りから孤立していることが多いのが現状。幸い僕には高校のころから研究パートナーがいましたし、大会やコンテストを通してさまざまな研究分野を持つ学生と交流できたので、同世代の仲間には恵まれていました。そこで違う世界に触れること、同世代で頑張っている仲間と話すことは、自分の研究のモチベーションに大きくつながったんですね。そんな経験から「若手の研究者コミュニティを作って、お互い情報を交換し合い、切磋琢磨(せっさたくま)していきたい」と考え、団体の立ち上げに至りました。現在では、他分野の研究者と議論してモチベーションを上げるだけにとどまらず、研究分野の垣根を超えたコラボレーションや新たな発見を促すことで、「本気でここから日本のサイエンス界を牽引していく」ことをテーマに活動しています。

もうひとつが、株式会社Gifted and Talented Education(GATE)の設立です。既存の教育に満足できていない中高生を対象に、現役の東京大学理科Ⅲ類生を講師として、受験対策にとどまらないトップレベルの教育を提供する事業を展開しています。

これには、高校時代に短期留学した際の経験が大きく影響しています。欧米では飛び級制度など、個々の才能や実力に見合った学びを提供する“ギフテッド教育”が浸透しています。事実としては知っていましたが、実際に留学先で15歳の少年が大学の授業を受けている姿を見ると、やはり驚きました。話を聞いてみると、彼は「自分は勉強が得意なんだ、大学生にだって負けないよ」と誇らしげに言ってきて。とてもうらやましく思いましたね。僕自身、中高生のころは常に学校の勉強に物足りなさを感じていて、それは塾や予備校に行っても解消できませんでした。日本にはまだ、本当に学びたい意欲の高い学生に対して、それ相応の場所を用意するシステムが整っていないんだということを痛感しましたね。

海外の進んだ教育現場を目の当たりにした僕は「日本でも、学習意欲を持て余している中高生が満足できるような教育を提供したい」という思いをずっと抱えていました。SFCで経営学などの講義を受講したり、ベンチャー起業をしている先輩方との出会いがあったりしたおかげで、その思いに対する自分なりの答えをGATEという形にして世に送り出すことができました。GATEの普及によって、日本の新しい教育のカタチを創造していきたいと考えています。

まだまだ始めたばかりですが、事業を立ちあげて強く思ったことがあります。それは「自分で作り出した仕事が一番楽しい」ということです。人からやれと言われた仕事は、どうしても「やらされている」という受け身でネガティブな姿勢になってしまいます。自信と誇りを持って自らがビジネスの主体になれば、仕事は本当に楽しく刺激的なものになるなと実感しました。

将来…いや、1年後でも、自分が何をしているのかは、まったく想像がつきません。研究活動やGATEを中心とした教育事業はもちろん継続的に取り組んでいきますが、最近では情報技術にも強くひかれていて、『すごい時間割』というアプリを開発している株式会社Labitの新規事業チームにも参加しています。学生というしがらみの少ない立場にいる今だからこそ、やりたいと思ったことはすぐ行動に移して、失敗を恐れずに挑戦し続けていきたいです。僕は、自分が世界を変えられると本気で信じています。新奇を生み出す発想力・冷静かつ大胆な思考力・誰よりも熱い情熱を武器に、みんながもっとワクワクできる世界をこれから作っていきたいです!