ブッキ・ビンタンのランドマーク、パビリオン  (Photo:©Alt Invest Com)

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 マレーシア最大の金融機関メイバンクの創業者、邱拔Khoo Teck Puatは東南アジアの華僑を代表する経済人の一人で、シンガポールとロンドンに高級ホテルを所有し、スタンダード・チャータード銀行の最大の株主でもあった。推定資産は43億シンガポールドル(約3000億円)といわれ、生前はシンガポール一の大富豪だった(2004年に87歳で逝去)。アンソニー・クーは、この大富豪の孫にあたる(実名では差しさわりがあるので仮名にする)。

 クアラルンプールに行くといったら、香港の知り合いに「アンソニーを紹介してあげるよ」といわれた。といっても、本人に会うまでは華僑の御曹司だとはまったく知らなかった。よくわからないまま「話を聞かせてくれないか」とメールを送ると、「いいよ。で、どこで会うの?」とものすごくカジュアルな返事が来た。「いっしょに夕食でもどう?」と書いて宿泊予定のホテルを教えると、チェックインしたとたんに部屋に電話がかかってきた(後で考えると、その前にも何度か電話をかけていたのだろう)。まだ夕方5時前だというのに、ホテルの近くまで来ているという。

 ロビーで待っていると、巨大なSUVから若い男が降りてきた。長い鎖をあしらった細身のジーンズに皮のブーツ、Tシャツにサングラスといったいでたちで、軍人のように頭髪を短く刈り上げている。一見すると30歳前後だが、実年齢は40代半ばだった。信じられないくらい若く見える。

 ブッキ・ビンタンは高級ショッピングセンターや外資系ホテルが集まったクアラルンプールの繁華街で、東京でいうと六本木みたいなところだ。「マレーシアの伝統的なコーヒーショップに行こう」と誘われて、車で連れていかれたのはパビリオンという巨大ショッピングモールだった。ホテルからは歩いて2〜3分で、そんな距離なのにわざわざ車で迎えに来たのだ。

 ローカルのコーヒーは、ロブスタ豆(粉コーヒー)にコンデンスミルクを入れて甘くした、ベトナムコーヒーによく似た味だった。それを飲みながら、アンソニーは1時間以上にわたって自分の生い立ちを語った。

 ようやく話が途切れたので「そろそろホテルに戻るよ」というと、不思議そうな顔で「夕飯を食べるんじゃなかったの?」と訊く。私はすっかり勘違いしていて、夕食にはつき合えないから早く迎えに来たのだと思っていたのだ。

 けっきょくその夜は、客家料理のレストランでビールを飲みながら、閉店までアンソニーの話を聞くことになった。彼と出会って、私はようやく「華僑」という生き方をすこし理解できたような気がした。

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