日本は貿易依存度の低い内需国。世界のマネーが日本株市場に流入 !?
世界で最も注目度が高い米大統領選挙。現在では民主党のオバマ氏がやや優勢の模様だが、ロムニー氏も巻き返しを図るのは必須だ。ただ、「財政の崖」を抱える米国では、政策の自由度が少ない。それは日本や欧州も同様である。重要なのは、世界的な金融緩和でジャブジャブとなった資金がどのマーケットに向かうかということなのだ。


米大統領選挙後に相場の大荒れはなし。中国リスクには要注意

最も注目されているのは、11月6日の米国大統領選挙だろう。結論から言うと、民主党のオバマ現大統領、共和党のロムニー氏のどちらが当選しても、株式相場が大荒れとなる事態には至らないはずだ。

米国には、年末に「財政の崖」問題が控えている。そのため、どちらの候補が当選しても、結局は予算を組み直すことになるうえ、財政削減策を強いられることになる。

また、日本同様、米国でも上院は民主党、下院は共和党が過半数を握る?ねじれ〞状態にあるため、政治空白ができる可能性もある。そうなれば、FRB(連邦準備制度理事会)が実体経済を覆い隠すべく、さらなる金融緩和に踏み切るかもしれない。いずれにしても、オバマ氏が推し進める金融規制改革、医療保険制度改革などの構造改革は停滞することになりそうだ。

一方、ロムニー氏は中国を為替操作国に認定すると表明など、?強い米国〞路線を打ち出しており、ロムニー氏当選なら米中関係の悪化が予想される。この場合、日中関係もより悪化する可能性があるため、中国向け比率の高い自動車や建設機械関連株には手を出さないほうがいいだろう。また、日本製品の不買運動の影響が不透明なため、中国に販売拠点を置く小売り関連も避けたい。ただし、中国は日米欧と違って、財政・金融政策ともに余裕がある。今後も公共投資や金融緩和を追い風に、インフラ投資や住宅の整備が続くため、中国経済が大幅に落ち込むことはないはずだ。対日問題では、共産党大会が開かれる11月までは中国政府が強硬姿勢をとる可能性はあるが、それ以降は態度が軟化すると思われる。

欧米の緊縮財政の流れを受けて、世界経済は下方リスクを抱えている。欧州、米国とも、トップが代わって政策を転換したとしても、すぐに財政に余裕ができるわけではない。しかし、その一方で、米国のダウ平均株価は上昇を続けている。これは日米欧の金融緩和によって、実体経済とマネー経済が大きくカイ離しているからで、ジャブジャブの資金が米国株高を支えているからにほかならない。

米国株が高値を更新しているにもかかわらず、日本株が07年高値の半値近くにとどまっているのは、世界の名目GDP(国内総生産)に対する日米欧のマネーストック(通貨残高)の増加率(左ページの表参照)を見れば、おおよその説明がつく。

世界全体の名目GDPが08年以降の3年間で37%増加しているのに対し、米国のマネーストックは28%、ユーロ圏は31%増加している。一方、日本はわずか4.7%しか増えていない。マネーの増加量では圧倒的に日本円が少ないということだ。これでは米ドルやユーロに対して円高が進むのも無理はない。

米国の量的緩和の総額約200兆円に対して、日本の総額はまだ80兆円である。しかも、米国では議会や経済の状態次第でさらなる金融緩和の可能性があることを考えると、今後も円高傾向が続きそうだ。1ドル=70円台前半までの円高局面は想定しておくべきだろう。ただし、右肩上がりだった米国のマネーストックも、08年をピークに減少に転じていることから、70円を大幅に超えるような円高局面にはならないと思われる。

円高が進めば、世界経済の減速とともに日本株も失速するのでは、という懸念が生まれるはずだ。しかし、日本はGDPに占める民間消費支出の割合が約6割を占める「内需国」である。そう言われてもピンとこない投資家も多いだろうが、総務省の統計でも、輸出依存度は11.4%、輸入依存度が10.8%(米国はそれぞれ7.4%と11.3%、中国は24.5%と20.5%)と、主要国の中では低い水準である。

現在のようなマネー経済の環境下では、どこに資金が集まるかが重要になってくる。ダウ平均株価は高値圏にあり、欧州は金融不安の解消に時間がかかるだろう。そう考えると、円高が今後加速した場合でも?貿易依存度の低い内需国〞として、日本市場にマネーが集中する可能性は十分ある。世界経済の下方リスクや円高が背景にあるため、相場全体では横ばい傾向が続く可能性もあるが、個別株なら勝機は十分あるだろう。

世界経済の下方リスクを考えると、注目は外国人持ち株比率が比較的小さく、キャッシュ比率が高い銘柄。商品関連の出遅れ株やIT関連の優良銘柄には人気化する局面がありそうだ。また、今後は商品価格のインフレが続く可能性が高いことから、農業関連も有望だ。



崔真淑(MASUMI SAI)
マーケットアナリスト

国立神戸大学経済学部卒業後、大和証券SMBC金融証券研究所(現・大和証券)に株式アナリストとして入社。入社1年未満(当時最年少女性アナリスト)でNHKなど主要メディアで株式解説者に抜擢される。債券トレーダーを経験後、今年独立。


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この記事は「WEBネットマネー2012年12月号」に掲載されたものです。