アッシュ社長 
杉野 正氏

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アッシュ社長 杉野 正(すぎの・ただし) 
1958年、神奈川県生まれ。神奈川大学経済学部卒。82年ユニ・チャーム入社。96年ヘッドハンティングされエイチ・アイ・エス入社。2002年、しなの鉄道社長。04年埼玉高速鉄道社長。現在、アッシュ社長。

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■隠しごとはせず、本当のことを話す

僕は「うそつき」ではなく、「ほんとつき」なんです。本当のことを言ってしまう性格ですから、しなの鉄道を再建するときも、埼玉高速鉄道を再建するときも、社長として乗り込んでいったとき、社員に隠しごとをしないし、本当のことしかいわなかった。

しなの鉄道の社長に就任してすぐに、社員には「赤字を出す会社であれば、潰れたほうがいい」といいました。運営費のほとんどを長野県と沿線の自治体からの税金で賄っている会社です。その会社が赤字ということは、血税を垂れ流し、ドブに捨てているようなものです。このままなら、会社を潰して、社員はみんなハローワークに行ったほうがいいと伝えました。

だから、正直な話、社員には嫌われていたと思います。特に、改革に後ろ向きの社員を相手にするときは、社員が見ている前で、「辞めてもらいたい」という気迫で怒りました。なぜ、みんなの前で怒るかといえば、どちらのいっていることのほうが正しいか、社員にわかってほしいからです。

しなの鉄道のときには、社内に「打倒JR」「打倒、県企画局」などのビラも貼りました。目に見える形で、自分の意思を浸透させるためです。僕は自分の言葉にコミットしているから、目標を曖昧にせず、目的もしっかりと書いて貼っておく。口頭ならば、いいっぱなしになりますから。その分大きなプレッシャーですけどね。

会社再建で大変だったのは、コストダウンです。契約書を見ても、明らかに不平等で不利な契約になっている。しなの鉄道では、JR東日本の都合のいいように、契約が結ばれている。埼玉高速鉄道では、東京メトロの都合のいいように契約が結ばれている。しかし、社員はそういう不平等契約が身に染みついているから、どうコストダウンしたらいいかわからない。

だから、たとえば、キヨスクとの交渉や、車内広告の交渉など、大きな契約更改の交渉は、すべて、僕自身がしました。身をもって範を示すことで、できないことはないんだと、社員に示すわけです。

僕みたいに、「黒船」のようにやってきて、今までのやり方を根底から変えるためには、「結果」を出すしかありません。結果を出せば、社員も認めざるをえなくなる。好かれるかどうは別にして、認めざるをえないところまで結果を出せば、社員たちも僕に従わざるをえなくなります。

しなの鉄道の経営再建では、3割のコストダウンを打ち出しました。この3割は、今までのやり方では絶対達成できない数字です。つまり今までどおりの仕事をしていてはダメで、仕組みや方法を大きく変えないといけない。

一方で、コストダウンだけをやっていれば、会社の活気は次第に失われていきます。それよりも、面白い企画を考えて、増収を目指したほうがいい。しなの鉄道では、ビール列車やワイン列車、あるいは芸者列車などさまざまな企画を考え出し、実現しました。

いろいろな企画の列車を走らせることで、乗客が目に見えるほど増えてきます。結果が出れば、人間、楽しくなってきます。すると、社員自身もどんどん企画を出すようになる。そうなれば、自然に会社全体が動き出すようになります。

さらに、毎日、誰かれ構わず、声をかけるようにしました。仕事のことだけではなく、今日何を食べたのか、などと声をかけます。僕は、社長室というのが嫌いで、僕も一人のプレーヤーだから、他のプレーヤーのコンディションがわからないと、いい仕事はできません。それに自分が出した指示の反応を見る必要もあります。

僕は、人の欠点を見ないようにしています。欠点をあげつらっても仕方がないからです。配置転換でも、社員の長所を褒めて、いいところを伸ばすために配置転換を考えます。それから、前向きの失敗ならば、決して怒りません。新しいことにチャレンジした失敗は、次につながる失敗だと思います。

実は、これまで僕は社員に好かれるかどうか気にしたことはありません。少なくとも、認めざるをえなくなるまで、自ら率先して結果を出すこと、長所を見つけ出して適材適所に配置すること、隠しごとをせず、本当のことを話すことで、案外、社員には好かれていたかもしれません。

(アッシュ社長 杉野 正 構成=高馬卓史 撮影=鈴木直人)