【連載:シネマ守銭奴】『チキンとプラム〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜』の見どころ※イラスト一部掲載

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自伝的マンガを自ら長編アニメとして映画化した『ペルセポリス』が、国際的に高い評価を得たマルジャン・サトラピ監督が、再び自作のマンガを映画化。しかも今回は実写ということで一体どんな映像を見せてくれるのでしょうか。ともかくマンガも描けて映画も撮れるこの監督がすこぶる羨ましい!

「めくるめくメルヘンチックな映像に、我が乙女心1,000円UP」
人によって好き嫌いがあると思いますが、この映画の見どころとして"メルヘンチックな映像"が上げられると思います。西洋の洒落た絵本に出てくるような街 並や、アンティークな小道具。「ヒゲ」、「メガネ」、「美女」といった、わかりやすくキャラの立った登場人物(外国映画だと誰が誰だか分からなくなる事が 多々あるのでとても助かる)。アニメーションや影絵も効果的に使い、時にファンタジックに、時にダークに、抑揚を効かせた大人向けのメルヘン映像がめくる めくが展開していきます。この映像を楽しむだけでも十分銭を払う価値があるのではないでしょうか。「一人でウットリ死ぬんじゃねえよ! −500円(からの+1,000円)」
衝撃的なことに、この映画の主人公は、しょっぱなから死んじゃってます。。。何故!?
主人公は天才音楽家のナセル・アリ。彼は、大切なバイオリンを奥さんに壊され、人生に絶望して自ら命を絶ってしまったのです。ゆとり世代か!芸術家と言えどあまりにナイーブすぎる死の理由で観客を不安にさせつつ、物語はナセル・アリが死を決意した八日前までさかのぼります。

ベッドで死を待つ彼は、自分の人生をふり返ります。追憶のなか語られる"忘れられない恋"。そして彼にとってバイオリンがいかに大切なものであったかがおのずと明らかになってゆくのですが。。。。じゃあ死んでもしかたがないよね!とは正直思えませんでした。むしろ、思い出に浸りながらうっとり死んでゆく男の身勝手さには断固NOと言いたい。残される奥さんが不憫すぎる!天才か知らないけど、ナセル・アリかナシかでいえば、お前はナセル・ナシだ! マイナス500円だ!

と、思わず激高してしまいましたが、彼の気持ちも分からなくはないです。この歳になると忘れられぬ思い出の一つや二つあるもので、思い返すたびウットリしたりしょぼくれたりしています。しかもその思い出たちは、年を追うごとに記憶の中で美化されていっています。高2の頃の失恋の思い出なんかは、もはやケータイ小説なみにドラマチックなことになっています。なので、一概にこの主人公を責めたりできません(だからって死んていいわけではないですが)。
身勝手なヒゲバイオリニストに腹立ちつつも、観終わった後はつい自分自身の"忘れられない恋"に想いを馳せてしまう、そんな記憶スイッチ的なこの映画に1,000円プラスしたいと思います。

デートで観に行くと、お互い過去の恋愛を思い出して「あの人いま頃どうしているのかしら」と気もそぞろになってしまいかねないので、気心の知れた友達と観に行って、あーだこーだ語らうのが良いのではないかと思います。

そんなわけで今回の作品、1,500円の価値あり!

ちなみにこのお話、完全なフィクションかと思いきや、主人公にはモデルがいるそうで、モデルはサトラピ監督の叔父にあたる人物なのだとかっ。





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「チキンとプラム〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜」(原題:Poulet aux prunes)
ストーリー:妻に愛用のバイオリンを壊された天才音楽家ナセル・アリ(マチュー・アマルリック)は自殺を決意し、自室にこもり死ぬまでの8日間で人生を振り返ることにした。空っぽな音だと叱られた修行時代。人気絶頂の黄金時代。失敗した結婚。母の死。大好きなソフィア・ローレンとチキンのプラム煮。そして胸を引き裂かれる、叶わなかった恋。そして奇跡の音色の秘密とは...
監督: マルジャン・サトラピ 、ヴァンサン・パロノー
キャスト: マチュー・アマルリック、マリア・デ・メディロス ほか
上映時間: 92分
2011年/フランス=ドイツ=ベルギー

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