大きな労働問題になっているパワハラ。しかし、実際にトラブルが起こったときに、どこに相談すればいいのか分からなくて困る。社内に相談窓口を作ればいいと言うが、中小企業では実現性が低いし、だいたいオーナー社長や幹部が「加害者」なら、どうすればいいのか。

ある会社では、上司の要求が理不尽だと、部下が人事に飛び込んできた。担当者は傍観することもできず、上司と部下のどちらにつけばいいのか頭を抱えている。


反省文5回も書かされた。もう我慢の限界だ


――中小製造業の人事です。先日、顧客サービス部のAさんが相談にやってきました。「上司からパワーハラスメントを受けている」というのです。


Aさんはここのところ、お客さまからクレームを受けることが多く、それを上司から繰り返し注意されていました。


「何かというと、すぐに『反省文を出せ! 改善策を出せ!』と言うんです。すでに5回は出しましたが、もう書くことなんてありません。だいたいクレームなんて一定の割合で出るんだし、商品や他部署のせいだったりするんです。変なお客に当たるのも運なんですから」

Aさん自身は、お客さまから理不尽に怒鳴られて悔しい上に、上司からも責められて、すっかり頭に来ているようです。


「悪いのはお前だ、って繰り返し言うんですよ。もう自分が否定される毎日で、我慢の限界です。あの上司は自分では問題を解決せず、私の仕事の足を引っ張っているだけなんだから、パワハラとして処分してください」

あまりの剣幕に、いちど人事で預からせてくれというと、「会社がやらないなら労基署に訴えますからね!」と息巻いて去っていきました。


人事としては、業務命令に割り込むことに抵抗もありますし、まずは当人同士で話し合ってもらいたいと思います。しかし、傍観していると労基署なんかに訴えられては穏やかではありません。どう対処したらよいでしょうか――


臨床心理士・尾崎健一の視点

まずはAさんの「気持ち」に沿って耳を傾ける


上司の言動は、厚生労働省の「職場のパワーハラスメントの行為類型」の「過大な要求」に当たるおそれがありますが、「業務の適正な範囲を超えて」行われたかどうかは判断が難しいところです。まずは双方から話を聴くことから始めるべきでしょう。


パワハラが社外に出るトラブルに発展するパターンは、だいたい決まっています。会社に相談したものの、「その程度は仕事につきものだ」と突っぱねられて腹を立て、「まともに取り合わないひどい会社は訴えられて当然」となるわけです。相談を受けた人事は、Aさんが訴える気持ちに耳を傾け、いったん受け入れましょう。「上司はそんなつもりじゃないでしょう?」などと言うことは、Aさんの感情を否定することになりかねません。もちろん、上司にも言い分があるはずなので公平に聞き取ります。このプロセスの中で「どちらが悪人か」を判断する前に、お互いの誤解や言いすぎに気づくこともあり、今後の仕事のあり方について話し合えば済むケースも多いものです。


社会保険労務士・野崎大輔の視点

労基署はパワハラ相談を受けないが人事は警戒が必要


労働基準監督署がパワハラ相談に乗ってくれるかどうかについて、担当者に問い合わせてみましたが、具体的な解決に向けて介入することはなく、是正を指示するなどの強制力はないようです。労基署は「労働基準法に定められた監督行政機関」であり、労基法にはパワハラに関する条文がないからです。パワハラが精神疾患や労使トラブルにつながるケースが多いことから、アドバイスという形での助言指導はするようですが、社員が相談する効果は限定的といってもいいでしょう。


労基署のアドバイスでも会社が改善せず、本人が納得できなければ、労働局に問題解決のあっせんを申請するか、裁判に訴えることになります。そうなっては会社も困るので、人事がパワハラに当たるかどうか判断し、必要に応じて当事者に指導する必要があるのではないでしょうか。ただし、ハラスメント行為が傷害罪や名誉毀損罪など刑法に抵触するような場合は、本人が警察に届けても仕方ありません。






(本コラムについて)

臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。