遠隔操作ウイルスに感染したパソコンから犯行予告が書き込まれ、19歳の少年ら計4人が誤認逮捕された事件は、日本の刑事補償の問題点をもあぶりだしている。

不当逮捕で1か月半も拘束されたことへの補償金は、1日につき最高1万2千円程度なのだ。ネットユーザーからは「安すぎる」「ふざけてる」といった声が掲示板などに相次いでいる。

拘束1日当たり最高1万2500円、時給でいうと500円

ネット利用者の怒りのきっかけは、共同通信が2012年11月8日に配信した記事だった。

「誤認逮捕された19歳の少年への補償手続きが始められた」として、支払われる見込みの補償金は

「拘束された日数に応じて支払われ、拘束1日当たり最高1万2500円」
「少年は7月1日に威力業務妨害で逮捕され、(中略)46日間拘束された」

と報じた。

「24時間拘束だから、時給でいうと500円」「絶対許せない。ひどい」「人生を狂わされた代償がたったの57万円」。この記事を受けて、ツイッターやネットの掲示板には義憤にも似た意見が書き込まれ、「こんなに安ければ誤認逮捕も平気でやるわけだ」など捜査機関に対する批判も多かった。

少年らへの補償金をめぐっては、多くの人が首をかしげてしまうレベルだが、日本の刑事補償制度は一体どんな仕組みになっているのか。

「被疑者補償規程」はあるが…

憲法40条(刑事補償)と17条(国家賠償責任)の趣旨を実現するため、日本には刑事補償法と国家賠償法がある。

このうち刑事補償法では、拘留・拘禁1日当たり千円以上1万2500円以内、死刑執行3000万円以内の範囲内で支払われる。ところが、その対象は「拘留または拘禁された後に無罪判決を受けたとき」としており、誤認逮捕の後に不起訴処分となった今回のケースなどは補償請求する権利がないことになる。

その救済策として国が1957年に定めたのが「被疑者補償規程」で、いったん逮捕したものの罪を犯していないという十分な証拠などがある場合は、刑事補償法と同様の補償金を支払うことになっている。

前出の少年の補償金はこの「被疑者補償規程」にのっとって支払われる見通しだが、刑事補償問題に詳しい弁護士は「請求可能な期間が刑事補償法に比べて短いことなどから、近年、国内で誤認逮捕された人の中で被疑者補償規程を活用した事例は決して多くはないはず」と指摘する。

国家賠償法は「公務員の不法行為」が必要

もう一つの国家賠償法は、誤認逮捕された人の味方になってくれるのか。

同法の場合、国や公共団体に損害賠償を求めるには「公務員の不法行為」という用件が必要となり、このハードルが実に高いのだ。

遠隔操作ウイルス事件に当てはめると、警察側は高度なサイバー犯罪に対応する知識不足などから誤って4人の身柄を拘束したが、それ自体は職務行為として不法行為とはみなされにくい。冤罪事件の被害者が起こした国家賠償請求訴訟でも、判決の大半は逮捕・起訴した警察官や検察官の行為を不法行為と認めてはいない。

ハードルの高さからか、足利事件の犯人として17年半拘束された菅家利和さんでさえ、国賠訴訟を起こしていない。

一方、郵便不正事件で無罪が確定した元厚生労働省局長の村木厚子さんが、国などに約4100万円の支払いを求めた国賠訴訟では、国は2011年10月に公務員の不法行為を認めて休職中の給与分など約3800万円の支払いを認めた。

だが、これは検察官による証拠改ざんという決定的な証拠が明らかとなったからで、国家賠償訴訟の中では極めてレアケースとされている。