しかしこういうとき、男は狼狽(うろた)えてはいけないのだ。

僕も以前は妻が「いきなり不機嫌現象」を発生させたとき、それをなんとか回復させたくて、あの手この手の策を練り、解決に励んだものだ。

妻の機嫌をとろうと饒舌になったり、積極的に家事を手伝ったり、とにかく自分から何かを仕掛けたものだが、そのほとんどが効果を発揮することはなく、かえって妻に鬱陶(うっとう)しがられるという泥沼にはまっていったものだ。

そんな僕の対応が大きく変わったのは、ある日の出来事がきっかけだった。

その日、妻が通算何度目かの「いきなり不機嫌現象」を発生させ、しかも後者の「理由は特になしパターン」だったため、僕はどうしていいかわからず、ただ困惑するしかなかった。

ところが翌朝になると、妻の不機嫌は意外なことであっさり完治したのだ。

完治の理由は、昨夜の妻がぐっすり眠れたということである。

正直、これには拍子抜けしたものの、冷静に考えると膝を打つものがあった。

子供のころ、よく祖母が「睡眠は万病に効く」と言っていたが、まさにその通りだ。

医学が発達していない時代を生きた人間にとって、快眠とは己の自然治癒能力を高める唯一の方法であり、それは精神面においても効果的だったのだろう。

よく考えれば、人間の怒りや不機嫌は一種の精神の乱れであり、病気にたとえるなら心が風邪を引いたようなものだ。

だったら、なおのこと寝れば治るわけだ。

不機嫌になるということは、心身が疲れている証拠だ。

だから世の男性は、妻が「いきなり不機嫌現象」を発生させたとき、狼狽えることなく、妻に快眠を促すように努めればいいわけだ。



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