お菓子を通じて新たな需要を創造する

ビジネスパーソン研究FILE Vol.191

ロッテグループ 野口直之さん

独自の視点を生かし、新たな需要を創造する営業担当の野口さん


■地道な提案でガムの売り場を増やした名古屋時代。ロッテの品質を伝える工場見学ツアーも開催

「身近な商品に携わり、思い入れを持ってできる仕事がしたい」
そう考えて、幼いころから慣れ親しんだ商品を提供するロッテを選んだ。人と接するのが好きなことから営業職を志望し、配属当初からお客さまとの信頼関係を築くためにどんどんアプローチしていったという。
「新入社員研修の後名古屋に仮配属され、数週間OJT研修を受けてから本配属となりました。希望していた東京ではなかったので少しショックは受けましたが、『まずは最初の3年間、全力で頑張ろう!』と決意しましたね。私の担当は、大型スーパー30店舗のフォローと地域密着型スーパーの本部。毎日5〜6店舗を回っていたのですが、とある店舗だけがレジ前にガムの商品陳列棚を置いていないことに気づきました。そこで、まずはこの店舗に重点的に通って、ガムの売り上げをアップさせる突破口にしようと考えたんです」

野口さんは週に2〜3回はこの店舗に通ったが、最初のうちは口を利いてもらうこともできなかったという。
「なぜ陳列棚を置かないのか聞いてみたところ、『邪魔だからいらん』と提案の余地もない状態でした。そこで、何度も通って世間話などをしながら、素直にぶつかっていくことにしました。また、こちらから商品提案をした際に相手の関心がないと感じたら、無理に話を続けないようにしていましたね。新商品のご案内やチェーン内での売り場の棚割(商品棚にどの商品をどのように陳列するかの配置計画)についてなど、相手にとって有益になりそうな情報を伝えるように心がけました」

当時、店舗ごとの情報をまとめた営業ノートをつくっていた野口さん。立地条件から駐車場台数、営業時間などの基本データに加え、お店の菓子担当者の出身地や好きなスポーツ選手などの情報、訪問時に会話した内容までをすべて書き込み、次回の世間話に生かしたという。
「気難しい店長が打ち解けてくれるようになったころ、レジ前にガムの陳列棚を置くことを提案してみました。設置した場合の試算を見せ、売り上げアップにつなげられると伝えたところ、あっさりと採用してもらえたんです。すごくうれしかったですね!」

野口さんは他店舗でも地道な提案を続け、着実にガムの陳列箇所を増やしていったという。
「最初はとにかくガム売り場を増やすことだけを目的としていました。が、ある店舗で『野口さんのおかげでこんなに売り上げが上がったよ。ありがとう!』と言われて。自分の提案が数字に結びつき、喜んでもらえることに大きなやりがいを感じました。チェーンや店舗によってガムの棚割はまったく違うことが多いし、立地や特性も違うもの。本部のバイヤーからスーパー全体の販売傾向の情報をもらい、キシリトールガムやフルーツガムなどのデータを一般市場データと比較分析しました。また、店舗の立地によってガムの売れ方が異なるため、どこに売り上げアップのチャンスがあるかを探っていきました。そして、データ分析から仮説を立てて陳列方法を考え提案し、テスト販売後に実績の検証を行って、次の提案につなげていく。この繰り返しで、自社商品のシェアも拡大していきました」

入社3年目のころ、「もっとロッテのガムの素晴らしさを知ってほしい」と考えた野口さんは、担当チェーンのバイヤーを連れ、東京のガム工場見学ツアーを行うことに。
「商品開発担当者や工場長からの専門的な説明を聞いてもらい、実際にキシリトールなどの甘味料や味付け前のガムベースを味見・試食してもらうなどもして、ロッテのガムづくりへの姿勢を理解してもらおうと考えました。名古屋に帰る新幹線の中で、『行って良かったよ。真摯な姿勢が伝わったし、会社全体で温かく迎えてもらえたと感じた』と言われて。最高の品質の商品を、真面目につくっているロッテという会社を知ってもらうことができました。私とバイヤーの関係性も一歩進み、会社対会社の信頼関係を築くことができたと思います」

2006年、ガムについての知識をさらに深めていった野口さんは、この年に始まった社内のガムに関する資格試験に合格した。
「ガムの品質やキシリトールなどの成分、健康への影響などを学ぶ中、商品への思い入れがよりいっそう強くなり、『ガムって、すごくいいものなんだ。これをさらに広げてもっとニーズを拡大していこう!』という意欲が高まりました。ガムの消費大国であるアメリカのマーケットを視察する研修にも参加し、商品展開のヒントを得たり、売り場の研究をすることもできましたね」


■大手スーパーチェーンの担当となり、菓子シェア1位を達成した!

2007年、野口さんは東京に異動し、関東で最大級の食品スーパーチェーンを担当することになる。
「当時、そのスーパーの菓子カテゴリーにおいて、当社のシェアは3位という状況でした。そこをどう切り崩すかが問題でしたが、首都圏の店舗は東海地区と比べて店舗面積が狭いという特徴があり、大規模にお菓子を陳列する催事コーナーはほとんどありませんでした。そのため、定番コーナーでの陳列が重要でした。また、レジ前にガムの陳列棚を一切置いていないという状況もあったんです。陳列箇所を増やすことは難しいのですが、それができたら大きいと感じましたね」

そこで、店舗フォローを担当する50名以上の女性パート社員とこまめに連絡を取り、全店の情報を収集しながら突破口を探すことにしたという。そんな中、「タバコ増税の新制度導入が決まったことで、レジ前にタバコの陳列棚を置く」という情報が! 野口さんは、チャンスとばかりにこれを切り口にした提案をすぐ仕かけたという。
「値上げによるタバコ離れからタバコ代替需要もあると考え、タバコの陳列棚の隣にガムを置く提案をしたんです。先方も『すぐにやりたい』と言ってくれて、2週間のテスト販売をしたところ、結果が非常に良かった。おかげで、当時の全店舗約200店で導入するという大きな取引に結び付けることができました! 名古屋時代から店舗フォロー社員には力を貸してもらっていましたが、大規模チェーンを担当した東京においても、現場で集めてくれた情報がすごく重要な鍵となりましたね」

野口さんは、ハロウィンや七夕、受験生応援などの季節感ある販促資材を活用した提案を続けた。そして、母の日に、真っ赤なカーネーションと合わせて真っ赤なパッケージのガーナチョコレートを贈る「母の日ガーナ」の企画で大逆転を図ることになる。
「ロッテとして母の日ガーナ企画自体はずっと続けていたものでしたが、このスーパーチェーンではこれまで実施したことがなく、先方のバイヤーが代わったことを機に、大々的にキャンペーンを展開しようと考えました。そこで、社内の販促部署にかけ合って、販促資材をふんだんに使わせてもらうことに。まだ販促資材の製作にも取りかかっていない時期でしたが、頼み込んで販促資材のサンプルをつくってもらい、それをかついで全店の菓子担当者が集まる会議に乗り込みました!」

大量にCMを流すことも決まっていたため、それに合わせて店内を真っ赤に染めるインパクトや、カーネーションをおまけにつける施策など、母の日ガーナのメリットを猛アピールした。その結果、4月の第1週から1カ月間、担当チェーンの全店舗をガーナの真っ赤な色に染めることができたという。
「大規模な提案を実現した後、今度はロッテのお客さま相談室への問い合わせが特に多い商品『キシリトールタブレット』を切り口にした提案をすることにしました。子ども向けのキャラクターパッケージで、しかもキシリトールを使った商品であるため、お子さま連れのお客さまに大人気でしたが、一部のお店でしか販売されていないということに気づいたんです。生活サイクルの中にあるスーパーだからこそ、特定の商品に魅力を感じてくれれば、それが来店動機につながる。そう提案し、最初は担当チェーン20店でテストを行いました。やがて、じわじわと反響が返ってくるようになり、2年後には全店に置いてもらえるようになったんです。商品の特徴という小さなヒントからニーズを掘り起こし、光を当てていく。自分の視点を生かして、大きく商品を展開していける面白さを実感しました!」

数々の提案を経て、担当スーパーでついに菓子カテゴリー売り上げシェアがトップに追いついた2010年、野口さんはコンビニエンスストアを担当する部署に異動することになる。
「全国で9000店舗を展開するチェーンだったので、そのスケールの大きさに驚きを感じました。また、スーパーとは違い、コンビニは各店舗それぞれに経営者であるオーナーがいるため、本部はあくまでも提案と推奨をするスタイル。これまでのように本部のみに提案をすればよいわけではなく、各店にとって有益な情報を発信していかなければなりません。コンビニに来るお客さまは常に新しいモノ・コトを求めています。だからこそ、新商品を提案するだけでなく、新たな需要を開拓するためにトレンドや流行を“販促”や“商品”に取り入れることが大切です。今までにない価値や新たな文化を、お客さまと一緒に創造していくことが重要だと感じています」

この取引先では、年に一度、翌年1年分の年間戦略を提案する大切な機会がある。そこでは、担当しているコンビニ独自のカラーはもちろん、今後のトレンドやライフスタイルの変化を予測するなど、常に一歩先を見据えた展開方法を考えているという。
「営業という仕事は、正直キツいと思うことの方が多いですが、自分の提案にお客さまがうなずき、そして売り上げという形になる瞬間には、何物にも替え難い喜びがあります。お客さまのパートナーとなり、ロッテの商品を通じて戦略に参加し、結果を出せた帰り道のうれしさは、言い表せないほど大きい! それがクセになってしまうから、やめられませんね(笑)。今後は、『左のポッケにゃチューインガム(※)』ではないですが、国民全員のポケットにガムがある未来を目指します。2004年をピークにガム市場は縮小傾向にあります。しかし、ガムを噛むことにはさまざまな魅力があるので、それを広めていきたいですね」

(※)美空ひばりの「東京キッド」の歌詞の一節。