左より伊藤英明、三池崇史監督
 今年7月に公開された『BRAVE HEARTS 海猿』で国民的ヒーロー像を築き上げた伊藤英明が一転、“教師の鑑”の仮面の裏で生徒を虐殺する“サイコパス(反社会性人格障害)”蓮実聖司を演じる『悪の教典』。凶行前夜を描いたBeeTVドラマ『悪の教典―序章―』を経て、いよいよ明日11月10日より映画『悪の教典』が公開となる。“絶対悪”でありながら観る者の心を捕らえて離さない蓮実聖司の人物像について、伊藤英明と三池崇史監督に話を聞いた。

――伊藤さんは、表と裏の顔をもつ蓮実聖司という人物を演じるに際し、どんなことを心掛けましたか?

伊藤:原作を読ませて頂いていた時に、すごく面白い本で、サイコパスという役は到底理解できないんですけど、「このピンチをどうやって切り抜けるんだろう?」というゾクゾクする怖さや、どこかで殺人鬼である蓮実を応援してしまっている自分がいました。最初は「サイコパスだから、こう演じなければいけない」というカテゴライズされた考えをもっていたんですけど、蓮実はどこか純粋だし、動物的な本能をもっていると思うんです。だから、まずはどう演じるかを頭で考えるのではなくて、三池監督とスタッフの前で心を裸にして、エネルギーをぶつけられたらいいなと思っていました。

映画は本来、子供からお年寄りまで楽しめるエンターテインメントなんですけど、『悪の教典』はR15指定なので、広めるのがなかなか難しいと思っていたんです。だから最初BeeTVドラマ『悪の教典―序章―』では、膨大な量の原作から削ぎ落とされた所を補足できればいいと思ってました。映画の大きなスクリーンから携帯電話の小さい画面サイズを意識しなくてはいけなくなったので、最初は誰が観ても分かるような作品になっていたんだけど、「ちょっと待てよ」と思って。商業的には絶対に分かり易くて、成功することを考えなければいけないんですけど、そういうのは要らないんじゃないかと思って。ドラマは伏線でもあるし、変に分かり易くは作らないということで、単なる携帯ドラマのくくりから外れて、非常に素晴らしいものが出来上がっていると思います。

――蓮実聖司という人物を伊藤さんに演じさせた理由、三池監督にとって伊藤さんの魅力とは?

三池:蓮実の面白い所は、完全に一つ欠けているんだけど、他のものは大体、他の人よりも持ってしまっている所。なんか(伊藤さんと)似てますよね(笑)。色々な人間が生まれてきて、役者を目指して夢が叶って、同じ年に『海猿』と『悪の教典』が公開される人間というのは、世界中を見渡してもまずいないですよね。それはもちろん役者としての魅力もあるんでしょうけど、それよりも本能的な動物としての強さを持っている訳ですよ。言いようの無い不思議な魅力というか、「何のために存在してるのか?」って、本当は意味は無い訳ですよね。本人が望んでそうなった訳じゃなくて、こういう形で生まれ出た訳じゃないですか。もちろん、そこから色々な暮らし方とか出会いがあって、人生が何万通りもあったんでしょうけど、元から決まっていたような、運命みたいなものを感じる俳優なんですよね。それをもって生まれてしまっただけで、本人はただ自分らしく生きたいだけなんど、その場所が無いという。蓮実聖司という孤独な男と若干イメージがダブるんですよね。

あと、同じような目をしているんだけど、後半は特に銃を撃つ前後が、火薬の威力なのか、人がすっ飛んでいく肉体が壊れていく手応えなのか、明らかに目の中身が狂ってるんです。眼球は演技できないんですけど、眉とか表情じゃなくて目の玉が、中身が狂っているように感じるんですよね。普段からクールな所と無邪気に笑う感じ、笑顔が嘘じゃないというのも蓮実的で怖いですよね。

伊藤:嬉しいですね(笑)。

――ドラマ『悪の教典―序章―』で共演された中越さんは、伊藤さんと蓮実との共通点として「非常に知的である」と仰ってました。

伊藤:本人に言われたことは無いですけど、ありがとうございます。中越さんに何か贈っておきますね(笑)。