2012年である今年は森鴎外がこの世に生を受けてから150年目の年になります。11月1日には文京区立森鴎外記念館が開館し、同時に始まる特別展で、鴎外自筆とされる「独逸日記」の原稿が国内で初めて公開されました。

 鴎外が30歳から60歳でこの世を去るまで過ごした旧居、観潮楼の跡地に記念館が建つとのことで、近年の谷根千ブームをさらに盛り上げることは勿論、森鴎外を敬愛する人々にとってこれほど胸を膨らませる出来事はないでしょう。

 東京都文京区には夏目漱石、樋口一葉、石川啄木、坪内逍遥、そして森鴎外といった何人もの文人・詩人が家を構えていました。かつて幕府の教育機関である昌平坂学問所があったことや、加賀前田家の屋敷跡に東京大学がつくられたことで、大学周辺に出版社が集まり、それに伴い多くの文人達が集まっていったといわれています。そして団子坂、無縁坂、暗闇坂等、鴎外の小説の中にも文京区の風景は幾度となく切り取られ、描かれていることは言うまでもありません。

 森鴎外記念館の開館を皮切りに、これから文京区には名所めぐりをする鴎外愛好者が今までに増し現れることでしょう。小説の中の世界、鴎外が見た世界に触れ思いを馳せながら歩くことで、より彼の文章の深い所まで潜り込んでいけるのではないでしょうか。

 書籍『鴎外の坂』は、鴎外が暮らしていた家から歩いて15分ほどのところで生まれ育ち、中学生の頃から『阿部一族』や『山椒大夫』といった作品に魅せられていた森まゆみが、鴎外の足跡をたどりながら彼の素顔と生涯を描き出した評伝となっています。

 97年に世に出た本書は、芸術選奨文部大臣新人賞受賞作として著者の代名詞といえる作品でしたが、長い間絶版になっていました。そして、森鴎外生誕150周年である今年、時を超えて復刊されたというわけです。鴎外の家族や、彼を取り巻く女性たち、また森林太郎としての彼の人間像にまで迫った内容は、まるで彼の生涯を実際に目にしているかのような錯覚さえ覚えます。

 日本で最も有名な文豪のひとりである森鴎外が愛した地、文字を通して巡ってみてはいかがでしょうか。きっと鴎外が朝夕の散歩で見ていた風景が目の前に広がることでしょう。そしてその風景が、より一層彼の作品にあなたを惹きつけてくれるはずです。



『鷗外の坂 (中公文庫)』
 著者:森 まゆみ
 出版社:中央公論新社
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