日立に続き、来年3月にはソニーの工場の閉鎖が決定。地域経済が受けるダメージは計り知れない

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10月19日、ソニーが岐阜県美濃加茂市にある子会社の工場を来年3月に閉鎖すると発表した。この一報に、美濃加茂市役所の幹部A氏はこう落胆する。

「従業員約2400人のうち、直接雇用の800人は市外の別工場に異動させるようですが、派遣など非正規1600人は契約更新されません。その大半が美濃加茂市民と思われます。一度にこれだけの雇用が町から失われるとは」

美濃加茂市に厳しい現実を突きつけたソニーの発表は、まさに青天の霹靂(へきれき)だった。

「19日の15時頃、ソニーのホームページ上で初めて工場の閉鎖を知りました。事前の連絡はまったくありませんでした」(A氏)

突然の撤退通告に市役所は大混乱。17時、部長級7名が緊急招集され、異例の幹部会が開かれた。

「『まさか』『本当にソニーが?』と、出席者全員、現実を受け止められない様子でした」(A氏)

その落胆ぶりを見かねた渡辺直由市長は「このピンチをチャンスに変えろ!」と幹部職員に“活”を入れたようだが……。

「これほどの規模の工場閉鎖は過去に経験がなく、その後の影響が計り知れません」(A氏)

この美濃加茂市、街中を歩くとポルトガル語が目につく。飲食店の看板、指定避難所マップ……。市の広報アナウンスも日本語の後にポルトガル語が流れる。

「市の人口(約5万5000人)の1割弱が外国人、そのうち半数強がブラジル人(約2500人)。20〜30代の若者が多く、市内の大手メーカーの工場で期間従業員として働いています」(A氏)

だが、市の玄関口、JR美濃太田駅の駅周辺に点在するブラジル人向けの飲食店やスーパー、人材派遣会社はどこもシャッターを閉めたまま。「ブラジル人の住民数は最盛期だった2008年11月(約3800人)を境に年々減少。現在は約2500人まで減っている」のがこの町の現状だ。

「07年に富士通子会社の半導体工場が、09年にパナソニック子会社の工場(大野町)が閉鎖され、今年8月末には日立が市内工場でのテレビ生産を打ち切りました。各家電工場の生産ラインを支えていた多くのブラジル人は派遣会社から契約を打ち切られ、祖国に帰ってしまいました」(A氏)

今回、閉鎖が発表されたソニーの工場も同様だったという。

「いわゆるガラケーをメインに扱う工場だったため、スマホの普及に伴ってここ数年は減産の嵐でした。実はその間、ソニーさんとは年2回の協議の場を持ってきたのですが、毎回、『厳しい』『いつどんな事態になるかわからない』と聞かされていた。ついに“その時”が来てしまいました」(A氏)

ソニーの工場閉鎖後、最も懸念されるのが派遣・請負労働者1600人の受け皿だが……。 同工場と取引関係のある派遣会社の社員がこう話す。

「非正規雇用の大半がブラジル人労働者。残念ながら、この町に次の派遣先はありません。豊田市(愛知県)や浜松市(静岡県)の自動車工場に外国人労働者を受け入れてくれる余地があるかどうか……。なければ、帰国を余儀なくされるでしょう」

だが、ソニーの工場で働く日系ブラジル人(28歳)がこう話す。

「大丈夫です。もう福井県の越前市というところで今より300円も高い時給1300円の工場を見つけました。日本の派遣会社に頼らなくても、私たち(ブラジル人)にはネットワークがあるから心配いりません」

彼らは、1円でも時給が高い場所を見つければ、すぐに荷物をまとめて町を出ていくので、「閉鎖後に一気に市から人がいなくなる恐れがある」(A氏)という。

町に残る市民の多くは震えていた。市内のガソリンスタンドの店員が話す。

「ソニーの期間従業員を乗せる送迎バスはウチの常連。でも、台数は08年のリーマン・ショック後に3分の1に減り、売り上げも激減しました。工場が閉鎖されたら、この店はやっていけなくなります」

不動産業者もこう嘆く。

「ウチでは今でさえ、アパートの7割が空室なんです。3割しかいない契約者もほとんどが外国人。彼らがいなくなったらほとんどのアパートが廃虚になってしまう」

さらにこう続ける。

「現在、入居中の外国人の大半が家賃滞納者。過去、何度も経験があるんですが、移転先を見つければ、家賃を踏み倒して逃げるように転出していく人たちもいるんです。それだけはやめてほしい」

業績不振に苦しむ日本の家電メーカー。突然の工場閉鎖により、第2、第3の美濃加茂が今後も出てくるかもしれない。

(取材・文/興山英雄)