直木賞候補になった『半落ち』や、映画化された『クライマーズ・ハイ』などで、男の矜持を描いてきた横山秀夫が7年ぶりの新作を発表しました。長い沈黙を破って世に出た『64』は、647ページにわたる超大作。D県警を舞台に、警察組織の陰謀に迫る男の心理をスリリングに描いています。まさに著者渾身の力がこもった警察小説で、ファンの期待を裏切りません。

 主人公の三上は、根っからの刑事であることを誇りとしてきた、周囲からはこわもてと評される男。不本意にも広報室移動を命じられてしまいますが、広報改革を目指し、記者との信頼を築きあげてきました。そんな矢先、警察庁長官の視察を前に、築き上げてきた信頼関係が瓦解しはじめます。記者クラブの警察広報活動へのボイコット宣言、刑事部と広報室が属する警務部のエスカレートする対立、そして三上の娘の家出......、すべてが相まって、三上は対立の狭間へと追い込まれていきます。

 これらの対立の要因は、未解決事件「64」にあるとにらんだ三上は真相解明に動き出します。長官視察までのタイムリミットは7日。「64」とは、昭和64年に起きた誘拐事件で、犯人に身代金を奪われ、誘拐された少女は死体で発見されるという最悪な結果に終わっていた事件でした。三上は残された謎のメモを端緒に、「64」の捜査関係者一人ひとりに、ぶつかっていきます。そこから暴かれていくのは、警察という組織の中の人事をめぐる駆け引きや、陰謀、保身、不正。ついに三上はD県警を揺るがす秘密に行き着いてしまうのですが......。

 マスコミ糾弾の矢面に立たされ、刑事部と警務部の二者択一を迫られ、自殺の可能性もある娘を見つけだすためには、警察組織の力に屈しなければならない。そんなさまざまな軋轢のなか、それでも権力におもねらず、組織の不正に怒りをたぎらせる三上の姿は、組織の中で奮闘するサラリーマンたちの共感を呼びそうです。社畜として生きるか、個人の正義を全うするか。三上の下した決断は、組織での立ち位置を逡巡する人たちに、生きぬくヒントと勇気を与えるものとなるのではないでしょうか。

 巨大組織に立ち向かう男に酔いしれてみませんか?



『64(ロクヨン)』
 著者:横山 秀夫
 出版社:文藝春秋
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