スパイシー・マーケットの歩き方
9月の新興国株式市場は、QE3実施の発表を受けて軒並み上伸。しかし、景気減速懸念が続く中国本土株は?独歩安〞の様相を見せている。11月に開催される中国共産党大会に向けて反転の動きは見られるのか?


最低賃金4割アップ!!付加価値産業で脱新興国へ

コメの買い上げと最低賃金引き上げは、吉か凶か!?

昨年の夏から秋にかけて発生したタイのチャオプラヤー川流域の大洪水は、日本企業にも大きな損害を与えました。

しかし、直近のタイ経済の動きを見ると、今年の第2四半期のGDP成長率は前年同期比4.2%増となり、順調に回復基調をたどっています。

株式市場を見ても、タイの主要株価指数であるSET指数が9月の頭に年初来高値を更新し、約15年ぶりの高値をつけました。

こうしたタイ経済の回復を支えたのは内需です。洪水からの復興需要に加え、利下げによる金融緩和策、消費刺激策などが寄与しました。さらに、治水対策などのインフラ整備も予定されています。

一方で、欧州や中国をはじめとする世界経済減速の影響もあり、今後は回復基調に一服感が出てくるのは避けられません。タイ中央銀行や国家経済社会開発庁は、2012年のGDP見通しをわずかにですが相次いで下方修正しています。とはいえ、インフレ率は比較的落ち着いており、追加利下げなど景気対策の余力は残っています。

今後のタイ経済の行方ですが、「コメの買い取り」「最低賃金の引き上げ」などの政策動向が注目されそうです。

コメの買い取り策とは、農家が生産したコメを政府が高い値段で買い取るというものです。現インラック政権が、タイの人口の約3分の1を占める低所得コメ農家の支持集めのために実施しているもの。最低賃金の引き上げとともに、これらの所得政策がタイの消費に貢献しています。

ただし、買い取り策によってタイのコメ価格は上昇。これにより国際競争力が低下し、ベトナムやインドなどの安いコメに押され、約30年間にわたって維持していたコメ輸出国トップの座から転落する可能性も出ています。買い取り策による財政負担の増加も懸念される状況です。

最低賃金の引き上げ策は今年4月から実施されました。全国の最低賃金を4割引き上げるという、かなり思い切ったものです。当然ながら労働コストが上昇してしまい、これまでの労働集約型を中心とした産業構造を維持するのが困難になりつつあります。

そのため、タイ企業の海外進出や、周辺国との連携を含めた付加価値型産業へと産業構造を変革していく必要性が出てきています。

タイは?新興国からの脱皮〞を図る大きな転換期を迎えつつあるといえるでしょう。

土信田雅之(Doshida Masayuki)
楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト

新光証券などを経て、2011年10 月より現職。ネット証券随一の中国マニアでテクニカルアナリスト。歴史も大好きで、お城巡りと古地図収集が趣味。



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この記事は「WEBネットマネー2012年12月号」に掲載されたものです。