■強化策の第一弾、岸野靖之氏の招聘

岸野靖之氏の松本山雅FCユース(U-18)監督就任の一報を耳にした時は筆者もさすがに驚いた。

クラブが下部組織の体制強化に動いている事は知っていた。現に開幕前のインタビューにおいて、クラブの運営会社である株式会社松本山雅・大月弘士社長は「下部組織を統括するアカデミーダイレクターの招聘に動いている」と筆者に発言している。地方都市に根を張り、予算にも限りのあるプロビンチャである山雅にとって、遠からず自前の選手は下部組織から育成する必要に迫られる。そのための体制強化は必要不可欠で、その強化策の“第一弾”が、岸野監督の招聘だったということだろう。

10月23日午後、松本アルウィンにおいて岸野監督の就任会見が行われた。その席で、大月社長による、就任に至るまでの一連の経緯が報告された。

今年3月に横浜FCを離れて以降、かねてから親交の深かった加藤善之GMを中心に連絡をとり幾度か顔を合わせる機会が設けられ、その後正式にユース監督就任を打診されたという岸野氏は、鳥栖と横浜でトップチーム監督の経験を持ち、来シーズン以降も「トップチームへの監督の思いは強かった」ものの、最終的に「GMや社長、役員の熱意がじわじわとボディブローのように効いてきた」と、山雅の一員となることを決断したという。

■長期的に見てもらう方針

トレードマークである赤い帽子こそ被っていなかったものの、赤いネクタイを締めて会見に臨んだ岸野監督は、当初こそ若干強張った表情だったが、徐々に笑顔をこぼれはじめ、その言葉からは強い決意を感じさせた。「簡単に出来ることではないが、始めないと永久に無理。育成組織作りの道順を作る手助けが出来れば」、「育成からの選手がアルウィンでプレー出来れば、僕は大泣きする。仕掛けられる、全力を出し切れる。そういったハートの部分を大事にしたい」、「育てるという偉そうな表現ではなく、サッカーを楽しめる、仲間を大切にする、そういう雰囲気を作っていきたい」――。口調は次第に熱を帯び、思いは既に来季以降に飛んでいるようであった。

S級ライセンスを持つ岸野氏だが、松本での仕事は育成だ。大月社長も「(招聘理由は)あくまでも育成の強化。その基礎の部分を作る仕事を全うしてもらう」とのこと。契約は2012年11月1日から3ヶ月間はユースアドバイザ―として、2013年2月1日から正式に監督として着任する。契約期間は1年ながら「長期的に見ていただく」(大月社長)方針だ。

■クラブは下部組織にどのような未来図を描いているのか

経験豊富な指導者を迎えることには成功した。しかし、大物監督一人を招いたところで岸野監督本人が言うように「僕は魔法使いではない。一人では何も出来ない」のである。足りないものだらけの現状のなか、クラブが下部組織に対してどのような“未来図”を描いているかが重要になる。

これまで下部組織はNPO法人で運営されていた。これはかつてクラブの運営を担っていたNPO法人アルウィンスポーツプロジェクトの流れを汲むもので、トップチームの運営が2010年秋に設立された株式会社に移行された後は、下部組織を運営する組織として残されていた。ここからユースのみを切り離し、株式会社に運営母体を移す(キッズからジュニアユース(U-15)まではこれまで通りNPO法人で運営する)。これによりユースはトップチームの予算で管理されることになり、これによってユースの強化にこれまで以上のお金を使う事が可能となった。

■“選手を育てる”という責任

練習環境などは、現在クラブと松本市の間で天然芝と人工芝のグラウンド2面を持つ専用の練習場整備に向けて動いているが、これも一朝一夕に解決される話ではない。ただし、「拠点が一つ決まるだけでも違う。例えば夜間照明などを用意するなど、少しでも良い環境を」(大月社長)とクラブのなかで出来ることを一歩一歩始めている段階だ。また、指導者の増員など体制の強化にも取り組んでおり、既に下部組織全体を統括するアカデミーダイレクターの招聘が決まっている。