再び生きることを決意した人の姿をとらえたドキュメンタリー!丹羽 理 氏が語る、写真展「再生」
一度は生きることをやめようと思った男性の、再び生きることを決意した日々の姿を追った丹羽 理 氏の写真展「再生」が去る2012年10月3日(水)〜10月15日(月)、東京・銀座にあるリコーフォトギャラリーRING CUBE9Fフォトスペースにおいて開催された。

日本の写真界で、ドキュメンタリーを撮り続けている人は数少ない。ドキュメンタリーフォトは、ワンショットで語れないので、どうしても何枚かの組写真となる。どういう順番で見せるか。意図通りに見せられるか。ドキュメンタリーフォトでは、写真1枚だけで魅せる力だけでなく、総合的な力が必要となる。

RING CUBEは過去4年間、写真展をやってきたが、ドキュメンタリーをテーマとして扱うのは、丹羽さんの写真展が初めての試みである。

ドキュメンタリーを通して何を表現したいのか。丹羽さんにお話しをうかがった。

■自殺問題を見つめ直す契機に
丹羽さんが写真に興味を持ったのは、2008年、2009年頃だという。カメラを購入して、海外へ行ったそうだ。

「ジャーナリズムには、もともと興味があって、文章を書くことに興味がありました。でも、いきなり文章を書かせてくださいは無理です。写真があれば、文章を書かせてくれるので。」と、丹羽さんは写真家になるキッカケを話してくれた。

写真家として活動し始めた頃は、とりあえず海外で撮りたいという衝動があった。たまたま上海万博の開催と重なり、建設ラッシュや、立ち退きの問題に対面した。その写真を撮ったところ、「週間金曜日」「DAYS JAPAN」といった雑誌に、運良く掲載されたという。
丹羽 理 氏

今回の写真展「再生」を開催するに至った経緯だが、社会派のフォトドキュメンタリー・フォトジャーナリズムの分野で写真家を目指す人たちに、真の自己成長に有意義な場を提供する「東京ドキュメンタリーフォトグラフィーワークショップ(TDWS)」において、スカラシップ賞を受賞したことが切っかけだ。

写真展「再生」の作品では、三年前に自宅で首吊り自殺を図り、一命をとり留めた後、もう一度生きていくことを決断した男性の日常を追っている。

「一度は絶望した社会の中を男性が再び歩きはじめた姿を通して、日本における自殺の問題をまた違った角度から見つめ直す契機になればと考えています。」と、丹羽氏は写真展について語ってくれた。

写真の撮り方だが、最初のほうはイメージが湧かずに、撮ってから構成を考えていたという。最近は、ある程度の構成を考えてから写真を撮るようにしているそうだ。そういう意味では、昔とは写真の撮り方が変わってきた。

「まあ、昔よりは、ちゃんと写真が撮れるようになってきました。」と、丹羽氏は照れながら話してくれた。
写真展「再生」の様子(その1)


■人間が生きていくことに関わりたい
「再生」をテーマとしてドキュメンタリー活動を始めたのは、3年前からという。
「理由としては、僕の友人が大学のときに自殺をしているのですが、自殺について見つめ直すよい機会かなと考えました。もうひとつは、自分が打ち込めるテーマを考えたときに、表層的なものではなく、人間が生きていくという根本的なことに関わるテーマがよいと考えたからです。」
ドキュメンタリー活動について語る、丹羽 理 氏


■微妙な距離感での撮影
作品の自殺未遂者とは、どのようなかたちで知り合ったのだろうか?

「インターネットの掲示板ですね。そういう方が集まる掲示板があって、『まずは、お話をおうかがいできませんか』というかたちですね。」

インターネットの掲示板というのは、如何にも現代的だ。丹羽氏によると、2、3人の方から返事があって、今回の「再生」では、一番理解があった方を撮影した。実際に、写真撮影のOKが出たのは、今年に入ってからという。

「難しいのは、自殺未遂の方はなかなか来ないというか、自殺未遂者の掲示板なんですけど、自傷の方がほとんどなんですね。なかなか巡り会えないので、縁ですよね。」と、作品の男性について語ってくれた。

作品の男性に初めて会ったとき、その男性はバンダナをして、携帯電話をたくさん持っていた。彼の第一印象は今まであまり出会ったことのないタイプというものだったが、喫茶店で話しをしているうちに、自分と似ていることに気づいたという。

「話し方とか、フィーリングとか、その辺がとても似ていました。ビックリしましたね。」と、丹羽氏は当時を振り返る。

お互いに心から打ち解けられる間柄ではないが、そのぶん、逆に友達とかに話せないことも話してくれたという。
写真展「再生」の様子(その2)


■出会いが本当の目的
丹羽氏に、作品の撮り方についてうかがってみた。

「ドキュメンタリーなので、相手の人に何かをしてもらうのはタブーです。普通の生活に僕がお邪魔して撮影するかたちです。話しながら撮ったり、何かしているときに撮ったりしています。」

一緒の場所と時間を共有しながら、写真を撮ったそうだ。そこまでいくのに、3年間の時間が必要だった。最初は一方的だったが、今は相手から連絡が来ることもあるという。

どの作品も、男性のプライベートな部分をさらけ出すものだ。
「僕は、これを別に発表しなくてもよいと、思うこともあります。この方に出会えていろいろ教わったので、そうなってくると、写真を撮る、発表する、はどうでもよいとなってくることがあります。」と、丹羽氏は苦笑しながら語ってくれた。

写真はキッカケで、出会いが本当の目的だという。
作品の撮り方について語る、丹羽 理 氏


最後に、今後の展開についてうかがってみた。

「ペースは落ちると思いますが、これからも撮り続けたいです。ほかの自殺未遂の方も撮影しているところです。違う側面では、自死遺族の方ですね。逆に、残された方が、どう再生していくかということで、それを今、撮影しています。」と語ってくれた。

そこには、ドキュメンタリーという難しいテーマに、これからも挑戦し続ける作家の姿があった。

●丹羽 理 氏のプロフィール
・1983年、愛知県生まれ。写真家。
・2012 Kuala Lumpur International Photo Award ファイナリスト
・2012 Tokyo Documentary Photography workshop スカラシップ


リコーフォトギャラリー「RING CUBE」
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