人の悪口、噂話をしてもいい相手、いけない相手−−齊藤 勇

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立正大学心理学部教授 齊藤 勇(さいとう・いさむ)
1943年、山梨県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。カリフォルニア大学留学。文学博士。現在、立正大学心理学部長を務める。『人はなぜ悪口を言うのか?』『人はなぜ、足を引っ張り合うのか』など著書多数。

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悪口や噂話は、人と仲良くなるための「必要悪」です。悪口なんて言わないという人もいますが、まわりから「面白くない人」「得体が知れない不気味な人」「悪口のひとつも言えない小心者」……と、マイナスの評価を与えられかねません。

心理学的見地に立つと、悪口は攻撃行動です。人間を含む動物はすべて、自己防衛のための攻撃本能を持っています。しかし、通常の社会生活では、肉体的な暴力に訴えることはルール違反。だから、言葉による“口撃”によって欲求不満を解消するのです。

ただし、誰にでも悪口や噂話をしていいというわけではありません。話す相手をわきまえる必要があります。

話し相手としてもっとも避けるべきは、上司でしょう。その上の部長や役員、社長は論外です。

たとえば飲み会の席で、できの悪い部下の文句を言ってしまったとします。それを聞いた上司は「オレのこともこんなふうに言いふらしているんじゃないか」という印象を抱くかもしれません。職場でおとなしい人ほど、要注意。酒の席で人のことをペラペラしゃべっていると、「こいつは調子がいいやつだ」と思われてしまいます。

本人に直接進言するのはもってのほかです。よく、飲み屋などで「オレに言いたいことがあれば何でも言ってくれ」と言う上司がいますが、その手に乗ってはダメ。腹を探られているだけです。ビジネスシーンに無礼講などありません。上司が悪口や噂話をしかけてきたら、それに軽くのる程度にとどめておくのが正解です。

よく学生時代の友人や家族に愚痴をこぼす人がいます。しかし、それではあまりストレスを解消できません。

悪口を言うとすっきりするのは、「カタルシス効果」が働くためです。カタルシスとは、古代ギリシャの劇場に集まった観客を精神分析学者のフロイトが説明した理論。人は演劇や芝居を見るとき、登場人物と自分の経験を重ね合わせて泣いたり憤ったりします。このように抑圧された感情を外に出し、精神を浄化することをカタルシス効果といいます。

カタルシスを得るための鍵は共鳴です。上司や部下の悪口を言う場合、その人物のことを知っているか想像できる相手でなければ、話が先に進まないはずです。不満を十分に表出できなければ、すっきり感を味わうことはできません。

同僚ならば似た不満を抱えている可能性が高く話は盛り上がりそうですが、ライバル関係にある相手だったら危険です。上司に密告されたら、目も当てられません。悪口の対象は上司ではなく部下にとどめましょう。

■無難なのは異動した元同僚

相手として一番ふさわしいのは、異動や転職で今は直接的な利害関係のない元同僚でしょう。業務内容が近い他部署の同期も、共鳴してくれるかもしれません。

評価に対する上司への不満がたまっているのならば、部下に話すのもいい。自分より下の者と比較して優位性を確認することを、心理学では下方比較といいます。

ただし、部下や利害関係のない同僚でも気をつけなければいけないポイントがあります。“悪口の相性”です。自分ばかりが悪口を言って、相手はうなずくだけ。これでは、人としての評判を落としかねません。対象者をほめたりけなしたり、また相手の不満も聞いたりしながら、許容範囲を探りましょう。相性のいい相手を常に2、3人確保しておけば、いざストレスを吐き出したいときも安心です。

最後に悪口を言う際の注意を3つほど。1つ目は、学歴や身体的特徴にふれないこと。第三者を話題にしているつもりでも、話し相手がそのテーマについてナーバスになっている可能性があります。

2つ目は、話し相手との関わりが深い人の話はしないこと。対象者を相手が慕っていたら、相手をけなしていることになります。

3つ目は、適度なところでやめること。悪口は楽しいものですから、ついしゃべりすぎてしまう。しかし、ある段階からお互いに不愉快な気持ちになってしまう。一方的な攻撃だけでなく、ところどころで「まあ、自分にも悪いところはあるけれど」といったエクスキューズをいれてバランスを取りたいですね。

(立正大学心理学部教授 齊藤 勇 構成=小檜山 想 撮影=的野弘路)