アーリントン滞在中の9月26日、僕はRangers Ballpark in Arlingtonにて、今全米で最もホットなMLBファンである「ホームランハンター」トレント・ウィリアムスに突撃取材を敢行した。前編となるVol.1では、彼は一体何者なのか、また試合開始前に彼が陣取っているエリアに侵入してプレゼントを渡し、彼からサインボールを貰ったことを紹介した。


 試合開始が直前に迫った頃、僕は彼と別れてプレスボックスへと戻りゲームを観戦していた。この日レンジャーズは、先発のM.ペレスがアスレティックスに初回5点を奪われる猛攻にあうなど、早々にダメなムードが球場を包んだ。中盤、レンジャーズ3人目のサムライ、建山義紀が2回をパーフェクトリリーフするなど見せ場はあったが、7、8回頃には既にスタンドは元気がなく、退屈なワンサイドゲームとなってしまった。


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序盤からアスレティックスに圧倒される展開に「はあ…」と溜め息つくテラス観戦中のファンたち



 ゲームが8回表に突入した頃、僕は再びSection50に足を運んだ。そこにいたのはもちろん、誰も座っていない前のシートの背もたれに足を伸ばし、左手にはめたグラブを右手でポンポンと叩きながら一人ゲームを見ているトレント。度々言わせてもらうが、17歳の貫祿ではない。彼の佇まいには何ともいえない安定感がある。


 「Nice to meeting you again(また会いにきたよ)」僕が声をかけると、振り向いたトレントは「So boring. They don't play well tonight(退屈していたよ。今日のゲームはダメダメさ)」と再び貫祿の一言を放つと、今度は思い出したように先ほどプレゼントした金ちゃんヌードルを手に取り「コレ、さっきコージ(上原浩治)に見せたんだよ!何て言ってるかよくわかんなかったけど笑ってた!」と大はしゃぎ。


 再会早々、相変わらずのトレント節に面食らいつつも、僕はとりあえず彼の隣のシートに腰掛け、一緒にゲームを観ながら彼に色々と質問をぶつけてみることにした(彼がシーズンシートを保有しているSection50は比較的空席が多く、他のセクションより列の数も少ないため割とのんびり観戦できる印象だった)。

 まずは軽いジャブとして「So... how many HRs have you caught so far?(今まで何個のホームランボールをキャッチしたの?)」と訊いたところ「I've got seven this year and fifteen in my whole life(今年は7個、去年以前も含めると15個だね)」とのこと。ちなみに彼がこの「グリーン・ヒル」でホームランキャッチをはじめたのは2009年、15歳の頃らしい。年々そのキャッチングに磨きがかかっているようだ。

 続けて「生まれたときからレンジャーズファン」という彼の"Favorite player(お気に入りの選手)"を訊くと「Josh and Yu Darvish(ジョシュ・ハミルトンとダルビッシュさ)」


halvish「You like Josh because he hits a lot into the green hill?(ジョシュが好きなのは、彼がここに沢山ホームランを打ち込んでくれるから?)」
Trent「Yeah(まあね)」


 そして彼のもう一人のお気に入り選手、我等がYu Darvishだが、一応言っておくと彼の言葉は日本人である僕へのお世辞とかでは決してない。トレントは本当にダルビッシュの大ファンであり、それはダルビッシュはエキサイティングな活躍を見せているからというのはもちろんだが、それ以外にも2つ、パーソナルが理由があるのだ。

 ひとつは、彼が今年ホームランをキャッチした7試合は、何故かダルビッシュ登板試合がとても多かったこと。ダルビッシュが相手バッターにガンガン打ち込まれているというわけではないので、ダルビッシュ登板日にはハミルトンがよく打ったということだろうか。そういえばダルビッシュのデビュー戦でも、ハミルトンがぶち込んだ一撃をトレントが見事キャッチし、キャッチ後のダンスまで含んだそのシーンの映像は今やトレントの名刺代わりになっている。



Rangers fan grabs another homer 04/10/12



 そしてもうひとつ、トレントがダルビッシュファンである理由だが、彼は以前にダルビッシュからとびきりの"プレゼント"を貰っているのだ。ご存知の方も多いかと思うが、彼がダルビッシュから貰ったプレゼントとは、ダルビッシュの私物である"サングラス"。

 下記リンクの"エピソード1”に、その詳細が書かれている。

【MLB.jp】ダルビッシュ特集


 トレント本人曰く、ある日いつものように試合開始のかなり前から球場に入り選手達の練習を眺めていたところ、たまたま近くにいたダルビッシュから話しかけられたという。何でもトレントはいつもしていたサングラスを盗まれてしまい(単に失くしただけではないかと僕は踏んでいる)その日は子供用の小さなサングラスをかけていたらしく、そのサングラスの違いに何とダルビッシュが気付いて声をかけてくれたのだ。

 で、次の瞬間、ダルビッシュは何と自分がかけていたサングラスを外し、トレントに差し出した。流石のトレントもこれには動揺を隠せず、戸惑いながらサングラスを受け取ったという。ダルビッシュのあまりのイケメンぶりにはもう溜め息が溢れる他ないが、トレントも中々カワイイヤツだ。


 以上の話は上のリンク記事にも書かれているが、この話には後日談がある。ご存知の方もいるかと思うが、ダルビッシュからサングラスを貰った約1週間後にトレントは、その大切な大切なダルビッシュサングラスを盗まれた(笑)。彼はツイッターで「誰かが俺のダルビッシュサングラスを盗みやがった!」と悲鳴をあげていたが、彼の脇の甘さには何だか力が抜けてしまう。

 この"ダルビッシュサングラス盗難事件"についてトレント本人に改めて訊いてみたところ、割とクールな話し方をする彼が突然大きく手を叩き「見つかってないんだよ!畜生!」と全身で悔しさをあらわにした。当然だが、やはり相当ショックだったようだ(笑)。

 まあそんな訳でダルビッシュの大ファンでもあるトレントだが、そんなトレントが今季のダルビッシュをどう見ているのか訊いたところ「素晴らしいよ!堅実にチームに勝つチャンスを与えているからね。8月は少し苦しんだけど、誰もが通る道さ」と、全身で悔しがった先ほどとは打って変わってESPNのコメンテーターばりの評論を展開。全く憎めないヤツであるが、地元のアツいファンたちはまさにトレントが言う通りのことを思っているようにも感じられた。良いときも悪いときも信じて応援するのが真のファンであるし、だからこそ球場があれ程多くの"背番号11"で溢れかえっているのだ(ダルビッシュのジャージー、Tシャツを着ている人は非常に多く、ピッチャーとしてはダントツ人気である)。


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トレントが座っているシートから見たフィールド。すぐ右に「グリーン・ヒル」がある



 さて、そんな話で盛り上がっていたそのとき、ちょうどD.マーフィーか誰か(記憶が定かでない)がレフトへ「ホームランか」という大飛球を打ち上げ、スタンドが総立ちになって湧いた。トレントと僕もその打球を見て立ち上がったが、その2秒後にトレントは「That's out(ありゃダメだ)」と言い放ち、周囲の誰よりも早く諦めて座った。トレントの"宣告"通り、打球はフェンス手前で失速してレフトフライ。


halvish「Trent, you know where the ball lands IMMEDIATELY when a hitter hits a fly ball(流石ホームランハンター、フライの落下点がすぐわかるんだね)」
Trent「Yeah(まあね)」


 この瞬間のシュールさを地球上の他の誰とも共有できなかったことは今でも悔やまれる限りであるが、ここまで書いて、トレントの何とも憎めないキャラクターを何となく、というか大分、感じていただけたのではないかと思う。

 さて、そんなトレントはボールパークの外では一体何をしているのだろう。ハイスクールの4年生である彼は、意外にも(?)ホッケーのジュニアチームに所属しているという。でも言われてみれば、ベースボールよりはホッケーという感じがするし、まあバスケはないだろうという感じだ(見た目的に)。

 また、来年ハイスクールを卒業するトレントに卒業後の進路について訊いたが「ノープラン」と返ってきた。ただテキサスに残ることは確かで、来年以降も彼の(さらなる進化を遂げた)ホームランキャッチを見ることができるはずなのでご安心いただきたい。


「レンジャーズなしの人生は退屈だよ!」



 さて、そんなお喋りをしていたらそろそろ8回裏が終わろうかという頃、いつの間にか僕等の横に、どこかで見覚えのある顔の男が立っていた…(Vo.3に続く)



halvish


P.S.

トレント直撃取材については、アーリントン滞在中に日刊SPA!で連載させていただいていた「日刊ダルビッシュ」でも書かせていただきました。こちらも是非ご一読下さい。