人質奪還作戦はニセ映画製作だった!? 衝撃の実話の映画化『アルゴ』にビックリ!【最新シネマ批評】

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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップしたのは、10月26日公開のベン・アフレック監督作『アルゴ』。全米ではアカデミー賞最有力と言われている作品です。この映画の凄いところは、社会的な実話をもとにしているにもかかわらず、エンタティメントとしての要素がしっかり盛り込まれている点です。

事実に振り回されることなく、自分の手元に引き寄せて演出したベン・アフレック。その演出力は脂がのっているっていうか、もう「あんた天才だったのね!」と言っても過言ではないくらいの素晴らしい作品です。

物語は1979年11月4日、イランの過激派がアメリカ大使館を占拠したことから始まります。パーレビ前国王がアメリカに入国したことを知り、引き渡しを要求してきたのです。人質になった大使館員のうち、6名が脱出してカナダ大使宅にかくまわれます。アメリカ政府は、まずはこの6名を帰国させます。

CIAの人質奪還のプロのトニー・メンデスは、もろもろの状況を冷静に見て「イランで映画の撮影をするためにロケハンに来たということに。6名はカナダの映画クルーとして出国させる」という作戦を提案。この大胆な作戦に驚く政府とCIA。でも彼らが見つかるのは時間の問題で見つかったら公開処刑です。時間がない米国は、この荒唐無稽な作戦を実行をうつすことに……。

映画の撮影クルーを装って、人質を奪還するなんて、コメディ映画のような物語設定ですが、これが実話というのだからビックリです。事件発生当時、米国政府は、この人質奪還作戦を機密扱いにし公開していなかったのです。18年を経て、この事件の詳細が公開され、こうして映画化にいたったのですね。確かに映画向きの題材ではあるけれど、まさに事実は小説より奇なり! です。

この映画はまず、イランとアメリカ政治的な背景をわかりやすく見せるので、観客は最初に両国の緊張関係を理解することができます。そのあと奪還作戦の計画に入るので、何をどうしたらいいのか、見る物にも明確で、それが実に困難なこともわかるのです。イランでSF映画を製作すると発表し、プロデューサー、特殊メークアーティストもハリウッドに依頼し、記者会見も開いて、有名媒体に取材もさせることで、イランを徹底的に騙すのです。

でもこの映画がニセモノだと知っているのはごく限られた人物だけ。そしてトニーがイランに行ってから、作戦実行までのスリルといったら! 「これって本当にあったことだよね」と何度も思い、記者など見終わったら手汗かいていましたよ! しかし、実話で、このスリル、かなり脚色したのでは? と思ったら、アフレック監督はこう語っています。

「この映画はドキュメンタリーではないから、少しドラマチックな要素を加えたところもある。でも、幸運にも実際に起こったことの方がドラマチックだったから、僕たちはその精神に誠実でいればよかったんだ」

そうです、この映画のチャームポイントは誠実さです。それはカナダ大使が命がけで人質を匿ったこともそうですが、何より、アフレック監督は映画の中で「決してアメリカは正義ではない」とも描いており、そこに監督の誠実さを感じました。自分の社会的な見解を織り込みつつも、この衝撃的な実話をエンタティメントとして傑作に仕上げるなんて。ベン・アフレック、凄すぎる!

ちなみに全編にみなぎる緊張感を緩和してくれる存在として登場する映画プロデューサー役のアラン・アーキンと特殊メークアーティスト役のジョン・グッドマンはブラックな笑いを振りまいて、これまたいい仕事! 

アカデミー賞レースのトップランナーと言われる『アルゴ』。あの池上彰さんも「全て事実です。ものすごく良く出来ている」とコメントしているようですよ。しかし、この作戦、アメリカだからこそできたのだろうな……日本じゃ絶対に無理ですね……。

(映画ライター=斎藤香)

『アルゴ』
10月26日公開
監督:ベン・アフレック
出演:ベン・アフレック、ブライアン・クランストン、アラン・アーキン、ジョン・グッドマン、ヴィクター・ガーバー、テイト・ドノヴァン、クレア・デュヴァル、スクート・マクネイリー、ロリー・コクレイン、クリストファー・デナム、ケリー・ビシェ、カイル・チャンドラー、クリス・メッシーナ、ジェリコ・イヴァネク、タイタス・ウェリヴァー、キース・ザラバッカ、ボブ・ガントン、リチャード・カインド
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