役者は小説の登場人物のような仕事

 好きな本が同じだと、その人とより深く繋がれるという斎藤さん、だから本をプレゼントすることも多いそう。後半はオススメの本や、本と仕事の関わりについて聞いてみました。

「僕には大親友がいて、彼とは、本・音楽・ファッションなど感銘を受けた自分の「とっておき」のものを年に1、2回プレゼントし合っているんです。あるとき、僕が『深夜特急』をあげたら、彼が『青年は荒野を目指す』をくれたんです。その本は彼が何度も読んでいるのでボロボロで、カバーもなくて手垢もついているような状態だったんですが、それがすごく嬉しくて、今でも大事にとってあります。今は本もデジタルになりつつありますが、本って人の歴史を感じるんですよね。アンダーラインがひかれていたり、ページが強く開かれていたら、『このページは、何度も読んだんだろうな』って思ったり。それこそ僕は読書の醍醐味のような気がするんですよね。だから古本もすごく好きです」

 自分のバイブルのような本はありますか?

「これは僕が一番繰り返し読んでいる本でもあるんですけど、藤原新也さんの『メメント・モリ』という写真と詩が一緒になった本です。とにかく内容が凄まじいんです。タイトルは"死を想え"という意味なんですけど、見ると放心状態になってしまうんですよね。本当に生きていることと死ぬことの距離感みたいなものをつきつけられてしまって。だから、自分の中の余計なものを取り払うような、いい意味のリセットをするために、僕は繰り返し、この本を読んでいますね」

 ちなみに、斎藤さんにとって、村上春樹の作品の世界観は自分にしっくりくるそうです。

「学生の頃に村上春樹の本に出会ってしまって、青春時代はすべて春樹色に染まってしまったと言えるくらい、あの世界観にピッタリはまってしまいました。『スプートニクの恋人』、『国境の南、太陽の西』とか。一番感性が柔軟で敏感なときだったので、活字の受け方も今よりも頭じゃなくて、直接ハートで判断していたんですよね。だから当時は、春樹の物語に登場する女性像に憧れていました。クラス一の美人の子というよりは、未知の部分が詰まった女性というか。学園で一番人気の子など、素敵だなぁとは思うのですが、どこかリアリティを感じなくて。自分のフィルターと通した春樹の作品のヒロイン像は、どちらかというと、みんなにチヤホヤされていない人だったりするので、自分のまわりの女性の見方は大きな影響を受けました。村上春樹さんは、表面じゃないものを好んだ方だと思うんですね。思春期の思い出って、断片的に印象が残っていて、あとは自分の中で都合良く加工して整えている。その感覚は非常によく分かる。だから思春期に出会った人たちの中で、あえて今、会いたくない人は男女共にたくさんいますね。その頃のイメージのままで居てほしいから、あえて今の現状は知りたくない、という願望なんですよね」


 それは、今の役者という仕事にもつながるといいます。

「僕の仕事って、多分そういうものをつくる仕事だと思うんですよ。たとえば、僕が普段から高級な車に乗っていたとしたら、貧しい役柄を演じるときにリアリティって無いじゃないですか。だから、具体的な部分を隠すというか、小説に登場する人物のように、読み手が「この人はこうなんじゃないか」と想像させるような仕事なので、意外と本人の素性とか、本人の思いとかはどうでもいいんです。それを伝えるのは、政治家さんやタレントさんで、僕ら役者は素材感の雰囲気を守る仕事なので。だから自分の素性は、こんな時代だからこそ余計に抑える仕事のような気がします。僕は、決めつけた事柄を提示するのではなく、自分の役柄や作品を通して見てくれた人が、想像して膨らますことで奥行きをつくり、その人の中にその人なりの残り方をしてほしいなと強く思います。そして、自分自身もそうありたいなと思いますね」

《プロフィール》
斎藤工(さいとうたくみ)
1981年8月22日生まれ。東京都出身。
10代からモデルとしてファッション誌やショーで活躍。高校卒業後に映画プロデューサーからスカウトされ、俳優デビュー。
現在は東京セレソンデラックスの最終公演「笑う巨塔」に出演中。2013年はNHK大河ドラマ『八重の桜』に出演。




『禁断の魔術 ガリレオ8』
 著者:東野 圭吾
 出版社:文藝春秋
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