日本を代表する文豪である島崎藤村の自伝的小説『家』の映画化が決まり、藤村が教師として6年間過ごした長野県の小諸市内で今月からロケが始まりました。

 メガホンをとるのは、太宰治の『斜陽』など数多くの文芸作品を手がけた秋原北胤監督。主演は西村知美さん。原作の主人公は小説家となる男性のお話ですが、映画ではその姉が主人公。時代も明治から昭和40年代に設定されるとのことで、原作とはまた違った魅力を感じられる映画になりそうです(来年5月公開予定)。

 藤村の出身地である長野県には、教師をしていた時に住んでいた「島崎旧宅」をはじめ、多くのゆかりの地があります。中でも、藤村はよく温泉に行っていたと言われています。田沢温泉の「ますや旅館」に実際に宿泊し、小諸の暮らしを描いた作品『千曲川のスケッチ』に「升屋というのは眺望のよい温泉宿だ。湯川の音の聞こえる楼上で、(中略)遠く浅間一帯の山々を望んだ」と記されています。

 藤村に限らず、多くの文豪たちが温泉宿で小説を執筆してきました。群馬県・谷川温泉の「旅館 たにがわ」は太宰治が癒養で訪れ『人間失格』を書くきっかけとなった『総世紀』の執筆を行いました。また、千葉県・犬吠埼温泉の「海辺のくつろぎの宿 ぎょうけい館」は、高村光太郎と長沼智恵子の出会いの場でもあり『智恵子抄』を執筆した宿でもあります。

 なぜ、こんなにも温泉は文豪に愛されるのでしょうか。宿泊サービスを提供する株式会社ゆこゆこの広報で温泉ソムリエの笠原敦子さんは、その理由を「転地効果のおかげで、温泉宿では筆が進むからかもしれません」と話します。

 「日常生活を離れ環境に恵まれた温泉地に行くことにより五感に刺激を受けると、脳内のホルモンを調節する内分泌系や呼吸、消化といった生命維持活動をつかさどる自律神経の中枢のスイッチが入ります。そこで、ストレスが解消し、精神疲労や病気に効果を発揮するといわれています」と笠原さん。

 環境が変わることで精神的、肉体的にもプラスになるこの"転地効果"。日常から解放されると同時に、綺麗な景色に触れ、新しい体験をすることによって、感性をつかさどる右脳が使われるのだそうです。

 「読書の秋」ということで、温泉へ足を運んで文豪たちの気分を味わってみるのもいいかもしれません。観光もいいですが、宿でゆっくり読書というのもありではないでしょうか。

【関連リンク】
文豪の愛した温泉宿(ゆこゆこネット調べ)
http://www.yukoyuko.net/onsen_news/ranking/selection_121025.html



『家 上巻 (岩波文庫 緑 23-4)』
 著者:島崎 藤村
 出版社:岩波書店
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