トヨタ自動車副社長 
布野幸利氏

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トヨタ自動車副社長 
布野幸利 
1947年生まれ。神戸大学経営学部、米コロンビア大学経営大学院修了。70年入社。95年豪亜・中近東業務部主査、2003年米国トヨタ社長などを経て09年より現職。
「25年間、新興国を中心にやってきたので本社では異邦人です」。

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──新興国市場を攻めるうえで、トヨタの環境技術は強みになるのか。

布野 新興国と環境は、トヨタの成長戦略における2つの柱です。トヨタにとっての経営の核である豊田綱領には「産業報国の実を挙ぐべし」とあります。新興国それぞれが持続可能な成長を果たすうえで、環境に優しい車の提供は“産業報国”に当たる。具体的には、トヨタが得意とするハイブリッド車(HV)を、新興国にも積極展開していく考えです。すでに、タイとオーストラリアではHVを現地生産していて、これから各国に広げていきます。

──HVはどうしても価格が高い。新興国でも人気を得られるのか。

布野 価格をどこまで下げられるのか、という問題はあります。が、(2011年末に国内発売した小型HV)「アクア」が生産が追い付かないほど人気なのを、新興国の消費者はネットを通じて知り、環境車への意識は高まっています。

──中国政府は2020年までにEVとPHVを累計500万台普及させる計画だが、新興国によって求められる技術が違うのでは。

布野 中国の経済発展は、他の新興国と比べ急激なため、総合的にエネルギー政策に取り組んでいくでしょう。環境技術にはFCV、EV、PHV、高効率な内燃機関と多様にあります。環境技術を受験科目の国数英理社に例えるなら、1社が全科目で満点を目指す必要はないと考えます。国語、数学と、それぞれが得意な科目を伸ばせばいい。そして自社が提供できる技術を必要とする国に貢献していくわけです。トヨタとしては、これからEVもやるけれど、強みのHVを高い比率でやっていく方針です。

■トヨタは安くて小さい車を売らない

──10年末にインドで発売した小型車「エティオス」ベースの新モデルを、15年までに8モデル展開する。新興国での車種戦略は。

布野 戦略の本質とは他社との差別化です。HVもそうですが、トヨタの強いところを中軸としていく。つまり、排気量1000cc未満のAセグメントをトヨタはやりません。1000〜1500ccのBセグメントを中心に、Cやそれ以上もやっていきます。長年新興国で仕事をしてきた私からすれば、「新興国は安い車、小さい車が欲しいんでしょ」というのは上から目線だと思うのです。新興国は小さな車しか売れないわけではない。(高級車)レクサスの需要も大きいのです。

──Aセグ以下はどうしていくのか。また、有望な市場は。

布野 小さな車は、例えばダイハツと販売協力して対応していくし、PSAプジョー・シトロエンとチェコの合弁でAセグの「アイゴ」を生産しています。連携しながら弱いところを補い、トヨタの強みを発揮していく考えです。トヨタは新興国市場のすべてを取ろうと考えてはいません。シェアのせいぜい3割から4割ぐらいが目標で、例えばEVでは中国BYDに頑張ってもらうなど、それぞれの持ち味が発揮されたらいいと思う。タイやインドネシアなどのASEANに関しては、日本メーカーが圧倒していて欧米韓メーカーは入れない。また、ブラジルやインドは親日であり、期待は大きい。

──グローバル化の中で日本人はどうあるべきなのか。

布野 現地法人に出向したら、当然その国の人たちと働くわけです。一番大切になるのは、チームワーク。チームワークを発揮するための前提は、チームメートへのリスペクト、すなわち尊敬です。リスペクトなしに、チームで仕事をすると、自分は本社から来た日本人だから命令する人、現地人材は命令を遂行する人となってしまう。これではうまくいきません。トヨタ自動車の従業員証が、現地人材に対しての「上から目線の免許証」であってはいけないのです。

日本の暮らしに慣れていると、どうしても「安全じゃない、汚い、おいしくない」と文句が出てしまいます。これらはすべてモノに目がいっているからです。相手国に対するリスペクトを持って、モノではなく心の世界を大切にする。そこでつながることが、グローバル展開の中で最も重要なことです。そうではない人間は使いたくない。私は強くそう思っています。

※すべて雑誌掲載当時

(永井 隆=構成 的野弘路=撮影)