プロ野球のドラフト会議が、本日、東京都内で行われます。注目だった岩手・花巻東高の160km右腕、大谷翔平投手が大リーグ挑戦を表明。日本ハムが強行指名を公表したものの、大阪桐蔭高の藤浪晋太郎をはじめ、亜大の東浜巨、東海大の菅野智之の3投手に指名が集中するのではないでしょうか。

 そんなアスリートの進路が注目されるドラフト会議に、東大合格者数30年連続日本一を誇る東京・開成高校の選手が話題を独占する日も、そう遠くはないのかもしれません。開成高校野球部は、2005年に東京大会ベスト16に進出すると、12年にもベスト32に勝ち進むなど、進学校でありながら、最近は上位に食い込む実力校。

 しかし、「エラーは開成の伝統」と選手が言うように、エラーをすることで相手を油断させるなど、進学校ならではの一風変わった戦術をとっているようです。書籍『弱くても勝てます』の著者・高橋秀実氏が、青木秀憲監督に話を聞くと、「守備というのは案外、差が出ないんですよ」と答えたそうです。

 「すごく練習して上手くなってもエラーすることはあります。逆に、下手でも地道に処理できることもある。1試合で各ポジションの選手が処理する打球は大体3〜8個。そのうち猛烈な守備練習の効果が生かされるような難しい打球は1つあるかないかです。我々はそのために少ない練習時間を割くわけにはいかないんです」

 つまり、監督は試合が壊れない程度に守備力が備わっていればいいと言うのです。そして、10点取られるつもりで守備に当たっているので、多少のエラーでは動揺したりしないそう。

 では、どうやって勝ち上がっているのでしょうか。その理由も開成独特のポリシーがあるようです。

 10点取られるつもりでいるので、15点取る打順を考える。そのために1番から強い打球をうてる選手を置く。

 「打順を輪として考えるんです。毎回1番から始まるわけではありませんからね。ウチの場合、先頭打者が8番9番の時がチャンスとなる。一般的なセオリーでは、8番9番は打てない『下位打者』と呼ばれていますが、輪として考えれば下位も上位もありません。

 8番9番がまずヒットやフォアボールで出塁する。すると相手ピッチャーは『下位打者に打たれた』または『下位打者で抑えられなかった』とうろたえるわけです。そこへ1番打者。間髪を入れずにドーンと長打。強豪校といっても高校生ですから、我々のようなチームに打たれれば浮き足立ちますよ。そして、ショックを受けているところに最強の2番が登場してそこで点を取る。さらにダメ押しで3番4番5番6番と強打者が続いて勢いをつける」

 なるほど、確かに動揺につけこめば大量得点を取れるイニングができます。監督の言葉を借りれば「ドサクサ」。とはいえ、心理戦でも優位に立ち、確実に点数を重ねる。開成ならではの理論的な戦術なのです。

 確かにベスト16入りした時のスコアは、この戦術の成果を物語っているのかもしれません。

1回戦:開成10-2都立科学技術高校(7回コールド)
2回戦:開成13-3都立八丈高校(5回コールド)
3回戦:開成14-3都立九段高校(7回コールド)
4回戦:開成9-5都立淵江高校
5回戦:国士舘高校10-3開成(7回コールド)

 野球ファンではなくても、心ひかれる開成高校野球部。つい、甲子園出場を決めて欲しいと肩入れしてしまいます。

 ちなみの今年の甲子園予選は......。

2回戦:開成7-4小松川
3回戦:開成5-4國學院
4回戦:開成0-10日大一(5回コールド)

 といったスコア。敗れた日大一戦は、5回裏に一気に8点を取られてしまいコールド負け。もし、6〜9回の攻撃のチャンスが開成にあったのなら、わからない試合だったかもしれません。そんな未完成な部分も含めて、開成には魅力があるのです。

 試合を観戦していた高橋氏は、「10点取られたら相手の油断につけこみ、ドサクサに紛れて25点取り返すのが開成野球。10点くらい取られた方が彼らは火がつくわけで、今こそまさに絶好のチャンスではないか。悔しいというよりは惜しい。口惜しいではなく本当に惜しい」と試合を振り返っています。



『「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー』
 著者:高橋 秀実
 出版社:新潮社
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