三菱自動車工業社長 
益子修氏

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三菱自動車工業社長 
益子 修 
1949年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。72年三菱商事入社。主に自動車部門に携わり、執行役員・自動車事業本部長を経て、2004年6月三菱自動車に移り、常務。05年から現職。

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──環境技術を持っていることは世界市場での優位性につながるか。

益子 いまや新興国でも環境問題は避けて通れません。ここで勝つためには、他社に負けない環境技術を持たなければならないのです。当社はEVの先発であり、その技術を有しているということは、新興国においての当社のブランド価値を高めていると認識しています。

──エコカー戦略はEVを頂点技術とする形で、臨んでいくのか。

益子 その通りです。13年1月にPHVを出しますが、EV「i-MiEV」の技術がベースにあるから開発できた。タイで生産する低燃費なコンパクトカー「ミラージュ」の回生電力にしても同様です。当社はHV以外は、ほとんどの環境技術を持っています(HVも2014年に発売予定)。したがって、先進国、新興国とも、それぞれの国の要求や規制、特性に応じて、エコカーの展開が可能なのです。

──ただし、EVはそれほど売れていない(6月までの累計販売は、国内9400台、海外1万8400台)。また日本では原子力発電による深夜電力を利用するという側面もあった。

益子 環境意識の高い消費者の多い欧州市場が、経済危機により低迷したことがEVが伸びない主因です。しかし、低迷が永劫に続くわけではありません。欧州はEVの魅力的な市場として復活していく。

また、国内ですが、確かにCO2削減のため原発による深夜電力を充電に使おうとする狙いはあった。しかし、原発の稼働率が落ちたいまでも、深夜電力を利用して電力利用を平準化するのに、EVは有効です。災害時の蓄電として、さらに電気をためる社会インフラとしても期待されています。国によっては、送電線の敷設がなくとも、EVにより発電、蓄電、放電もできる。電力政策そのものを変えられます。

──価格がどうしても高いのでは。

益子 EV用電池の値段は、かつての半分以下になっているのに、性能は上がっている。だから、EVは安くなっていきます。三菱自工は、GSユアサ製だけではなく、東芝製も使っていて、自分たちの車に合ったものを採用していきます。

■日本で生産する選択肢はなかった

──環境に関心が強い消費者ばかりではない。新興国でもエコカーは売れるのか。

益子 原油価格が上がると、低燃費な車が必要とされてきます。お陰様で、ミラージュはタイで好調です。

──ミラージュをタイで生産するという選択に迷いはなかったのか。

益子 日本で生産していれば「空洞化する」と言われることはなかったでしょう。しかし、その選択肢は、端からなかった。仮に日本で生産した場合、関税がかかり、しかもこの超円高の時代です。輸出しても利益を出せません。ミラージュは逆輸入した日本でも人気です。今後はインドネシアやフィリピンなどにも展開していきます。

──海外生産が増えると、80年代までのアメリカと同様に「企業は栄えるが、国内の失業率は上昇する」という懸念が膨らむが。

益子 内需が増えない以上、雇用の確保は難しくなる。当社は「国内での生産を維持する」と言ってはいるものの、実は自己矛盾に陥っている。短期的には国内生産を維持するけれど、長期的には海外生産に切り替えていく構造改革は待ったなしです。これからタイを生産拠点に、欧州にも輸出していきます。

単純に海外工場の生産量を増やすという話ではない。これまでは海外勤務は国際部と本社ぐらいでしたが、これからはすべての部門が出ていきます。生産、技術、購買、品質と、全社を挙げて人を出していきます。

──これから、日本人はどうなるべきだと考えるか。

益子 海外で活躍することです。「日本でしか働きません」というのはありえない。そして、“上から目線”になってはいけません。その国の土地を借りて、その国の人たちと一緒に、事業をなしていくのです。進駐軍になるのが一番いけない。戦後の日本でもあった労働争議は、各国で起きるでしょう。それでも人口が増えないなか、日本人が海外へ出て、現地人材とともに働くことが当たり前の時代に、いよいよ入っていくのです。

※すべて雑誌掲載当時

(永井 隆=構成 的野弘路=撮影)