バレずに同僚の足を引っ張る、とっておきの方法−−新田隆範

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新栄不動産ビジネス社長 新田隆範(にった・たかのり)
1954年、山形県生まれ。法政大学工学部卒。土地改良事業団を経て、海上自衛隊に入隊。90年千代田生命に入社。新栄メンテナンスへ出向後、親会社が破綻。2001年新栄メンテナンス(現・新栄不動産ビジネス)社長に就任。

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■まず攻撃より防御押さえる「3点主義」

組織が3人以上になると、足の引っ張り合いは発生する。特に、サラリーマン社長の民主化された会社組織では、不可避と言えよう。

1954年生まれの私は海上自衛隊の施設部に勤務した後、バブル期に36歳で千代田生命の不動産部門に転職した。千代田は2000年秋に経営破綻するが、それまでは名門企業として知られていた。30代で年収は1000万円を超え、一家4人が住む社宅は東急田園都市線沿線の高級マンション。法政大学工学部出身の私だが、慶応閥の千代田で出世を遂げていく。その過程で、引っ張ったり引っ張られたりは頻繁に起きた。

まずは、攻撃よりも防御が大切だ。守りを固めるためには、(1)自分が所属する派閥のボスである役員、(2)直属上司、そして(3)重要顧客といった外部の実力者――この3者を押さえることだ。私はこれを「3点主義」と命名したが、敵はこちらの弱いところを突いてくる。「新田はどうやら、業者と癒着しているようだ。銀座で豪遊しているのを見かけた」などという噂が社内で流れる。こんなとき、例えば(1)の役員から「変な噂が流れている。気をつけるように」と早い段階で知らせてもらう。そうすれば、大火になる前に小火で消火できるのだ。3者は自分を守り支えてくれる存在だが、あらゆる情報を通報してくれるのである。犯人はたいていは特定できる。だが、すぐに報復をしてはいけない。相手の弱みを知っていてもだ。足の引っ張り合いで重要なのは、常に冷静であること。感情的になったほうが必ず負ける。

特に、相手が勢いがあるときには、決して引っ張ってはいけない。切り返されて、大怪我につながることもある。

では、どうするか。「待つ」ことが肝要だ。強大な力を持つ人でも、1年から2年と時間が流れるうちに、弱くなるときが必ずくる。潮目が変わるタイミングを逃さずに、狙っていく。逡巡してはいけない。ただし、あからさまに引っ張るのではなく、弱っているところに“塩を塗(まぶ)す”ようにする。相手の自壊を助長させる要領で引っ張るべし。

さらに、重要なのは事後。相手が倒れた後は焼き鳥屋にでも誘い、「俺はあのとき君を応援したのだが……。力不足ですまん」などと慰めてフォローしておく。そうすれば、バレない。

間違っても、優位になった自分を誇示してはいけない。相手から信用を得れば、反撃の心配が消えるだけでなく、その後あなたを助けてくれるかもしれないのだ。

サラリーマンジャングルは、何が起こるかわからない。ボスの役員が失脚した場合、別の派閥に速やかに移らなければならなくなる。そんなとき、別の派閥のボスから声がかかることはまずない。呼び寄せてくれるのは、同期だったり役職や能力が同クラスの幹部だ。鞍替えのためのルートを確保しておくことが肝要だが、以前焼き鳥屋でフォローした相手が、呼んでくれるケースだってありうる。

派閥を移る際は、変なこだわりは捨てるべし。スーッと移動して、自然に新しい派閥のメンバーになるのが理想だろう。できる人ほど乗り換えは早い。逆に、こだわれば人生は狭くなる。

中には「一生懸命やれば、いつか認められる」と信じている人もいるが、幻想だ。同期の下で働きたい人などいないだろう。ライバルには勝たなければならない。

そもそも足の引っ張り合いとは、出世コースに乗っている人たち限定の話。能力が高い人たちの間で繰り広げられるのだ。「引っ張られているなぁ」という感覚は、出世を感じるときでもある。引っ張り合いが抗争となって表面化すると、尾を引き会社全体にダメージを与えてしまう。本当に会社を思う人は、ライバルの足を引っ張っても刺したりはしない。

ただし私は一度だけ、あからさまに引っ張った経験がある。千代田が破綻し、子会社の部長だった私は上を引きずり下ろし社長となり、MBO(経営陣による買収)で独立した。私がトップに立たなければ、やっていけないと判断したからだ。独立しもう11年が経過したが、現在約700人が働く新栄不動産ビジネスには派閥も足の引っ張り合いもない。私が超ワンマンだからである。

(新栄不動産ビジネス社長 新田隆範 構成=永井 隆 撮影=相澤 正)