現実にも起こりうる恐怖感! 酒浸り男と傷ついた女の愛を描いた映画『思秋期』【最新シネマ批評】

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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回は10月20日公開の英国映画『思秋期』です。2011年に世界中の映画祭を席巻した本作は、社会の底辺で生きる男と秘密を抱えて生きる女の愛と人生の物語です。とても厳しい人生を歩まなくてはならなくなった不器用すぎる男女の物語は、その心の葛藤が強烈過ぎて「彼らの人生を見届けずにはいられない!」と、スクリーンから目が離せなくなる映画なのです。

失業中のジョセフは、飲んだくれでキレやすく、周囲に当たり散らしケンカを売るような毎日を送っています。ある日、ケンカの末にチャリティ・ショップに逃げ込んだジョセフは、そこでハンナという女性に出逢います。ジョセフは自分を恐れない、優しいハンナに興味を抱くけれど、逆に彼女を汚い言葉で傷つけてしまいます。涙にくれながらも、訪ねてくるジョセフを許すハンナ。しかし、幸福な主婦に見えた彼女も、実は酒を離せない女でした。彼女には壮絶な秘密があったのです……。

主人公のジョセフは、酒とケンカのために生きているような男。世の中で起こるすべてが気に食わず、暴れまくって、人に迷惑をかけるのが人生という、ほとんど自己が崩壊しかかっている男です。そんな彼が、ハンナと出逢って少しだけ平穏を取り戻すのです。いつも酒ばかり飲んでいるのに紅茶とか飲んじゃって……。ハンナといると心が安らぐのでしょう。

でもハンナが抱える秘密が明らかになる瞬間、記者は背筋が凍りました。家庭で起こるそれは、許されないことです。記者はずっと「なぜ逃げないの?」「逃げて!」と心の中で叫んでいましたよ。やがてジョセフも気づきますが、彼は「彼女を助けたい。でも……」と心が揺れるのです。そこがすごくリアル。目の前にひどい目に合っている女性がいて、彼女を丸ごと引き受けられたら、それはヒーローでしょう。でもそれができないのがジョセフ。綺麗ごとじゃないからこそ、人間性がむき出しになるのですね。

それにしても「すごく生々しいドラマだな」と思ったら、パディ・コンシダイン監督曰く「ジョセフは、父がモデルなんだ」と。こんなキレやすい酒浸りの男が父親って!けれど、ジョセフが近所に住む少年に心を許している様子を見せたとき、もしかしてジョセフと少年の関係は、監督の親子の思い出でもあるのかなと……。そう思うと主人公たちの厳しい現実を見せられても、少し心温まるような気持ちになれますよ。

本作はフィクションですが、主人公たちの置かれている状況や遭遇する悲劇は、現実と大差ないような気がします。日本でも起こりうるし、下手すれば三面記事に載ってそうです。そんな悲惨な状況から逃げ出すには、やはり人との繋がりは無視できないなあと。人に傷つけられた心が人に癒される。良くも悪くも、人と繋がりあって、人生は続いていく。そんな風に深く考えさせられる映画『思秋期』。本作を見て、ひとり静かに物思いにふける秋……というのもいいかもしれませんよ。

(映画ライター・斎藤香)
http://bit.ly/hlZYAr

『思秋期』
10月20日公開
監督:パディ・コンシダイン
出演:ピーター・ミュラン、オリヴィア・コールマン、エディ・マーサンほか
(C)CHANNEL FOUR TELEVISION/UK FILM COUNCIL/EM MEDIA/OPTIMUM RELEASING/WARP X/INFLAMMABLE FILMS 2010


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